「もうこんなところ居られない」と館を出たらやばいことになりました

『むらさき』

事件が起きました

「俺はこの館から出ていく、もうこんな殺人鬼のいる館にはいられない!」


 そう言って俺は館を出たが… 道に迷ってしまった。気が付くと、館に居た田中先生と同級生の雅がいた。


「これで俺たちの復讐が終わる」


 田中先生が涙を流していた。


「良かった、これで私達の復讐も終わるのね」


 雅がそう言うと、田中先生は手に握っていたサバイバルナイフを、雅に刺した。


「え?」


「俺はな、あの化け物に心まで壊されたんだよ」


 田中先生がサバイバルナイフを抜き取ると、雅は倒れていった。


「雅… 悪かったなこんな事して…」


 田中先生はサバイバルナイフを自分の心臓に刺して倒れた。

 俺は二人が倒れていく光景を見る事しかできなかった。そして、俺は気付いた… 館から逃げれたのは俺だけだって事に…。


 あの二人が夢に出てくる時がある。そんな夜は眠れなくなるんだ… だから、夢であいつらが出てくると、必ず叫びながら目覚めるんだ。


「また、あの夢か…」


 俺は額の汗を腕で拭くと、ベッドから体を起こした。


「また、悪夢を見たの?」


 ユキはそう言うと、ベッドの中から出てきて俺の横に座った。


「どんな夢なの?」


 俺は深呼吸をして、躊躇いながら語り始めた。「あの夢は、いつも同じ場所で始まるんだ。古びた館の中。そこには田中先生と雅がいるんだ」


 ユキは静かに聞いていた。


「それで?」


「田中先生がナイフを持って雅を…」俺は言葉を詰まらせた。


「あの光景が何度も何度も繰り返されるんだ。そして、最後には田中先生が自分にもナイフを…」


 ユキの目が驚きと同情で満ちていた。「そんな悪夢が何で十回も続くの?」


「分からないんだ。でも、何かがそこにあるんだ。何かが解決されないと、この悪夢から逃れられない気がするん」


 ユキはそっと俺の手を取った。


「楽になる方法を教えるわ…」


「え?」


「二人で死のうよ… そうすれば悪夢を見る事はなくなるわ」


 ユキは俺の顔を見てニッコリと微笑んだ。俺は思わず目を逸らしてしまった。


「それは出来ないよ」


「どうして?私の事、嫌い?」


 ユキが悲しそうな声で言うので、慌てて否定した。


「そんな事ないよ」


「じゃぁ、どうして死ぬ事を拒むの?」ユキはしつこく聞いてきた。


「悪夢を見たくらいで死ぬなんておかしいだろ?」俺は強い口調で言い放った。


「どうして?おかしい?」


「そうだろ、悪夢を見ただけで自殺するなんておかしいだろ。だから…」


 ユキは俺の目を見つめた。


「分かったわ… 私はあなたの意思を尊重する…」


「はぁ…」と気の抜けた返事が出てしまった。あの事件以来、悪夢を見るたびに亡くなった恋人のユキが現れる。俺は彼女を見捨てた、自分だけ逃げてしまった。


 ユキが幽霊なのか妄想なのかわからない。ただ、ただ、俺は後悔している。彼女に悪夢を説明して、彼女が俺を連れて逝こうとして、俺が拒む。毎回同じだ、拒むと心が軽くなる気がするが、いつまで拒み続けられるかわからない。


 俺はただ、ただ、館を出たことを後悔している。

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