【午後五時二十五分】伊神 しのぶ
誠実そうな奴ほど私に言い寄ってくる。林くんもその一人だ。
私は人のものしか手を出さない。人のものだから欲しくなるのだ。
だから、今一番鬱陶しいのは私の手元から林くんを奪う
そう思っていると向こうから覚悟が決まったような、そんな表情の茜が向かってきた。
――そして、その時それは行った。
■ ■ ■
――
――
――
――
―― 殺 せ
―― 呪 い 殺 せ
■ ■ ■
ぼんやりとした眩しさを感じて胸を見ると、名札につけている緑の
私はすぐに理解できた。頭で考えるのではなく、初めから知っていたかのように理解できた。
私はわざとらしく足を踏み外して転び、財布の中身をぶちまけてみた。
「ありゃ。参ったなぁ……」
わざとらしく喋ってみる。
「大丈夫? ケガしてない?」
私に声をかけつつ硬貨を拾う茜の姿を見て、思わず口角が上がりそうになってしまう。
「気を付けてよねー」
「うん、ありがとう、茜ちゃん――」
私は満面の笑みを浮かべた。
「――ばいばい」
その一言と共に茜は見えないバスに轢かれたように全身がぐちゃぐちゃな姿となって廊下を血液やらなにやら、茜だったもので汚した。
――きゃあっはっは!!
なにこれ、サイコーじゃない!?
「あーあ、スッキリした」
茜だったものの上を悠々と歩いていると、何か硬い物の感触が足の裏に当たった。
「ん?」
靴底を見ると、そこには血のりがたっぷりとついた彼女の名札があり、そこには赤く輝く市章がついていた。
「あれ? 茜も呪われてたの?」
赤く輝く市章を拾うと、その市章に込められていた【上篠の呪い】が頭に刻まれた。
「なにこれ、【演歌歌手
まぁいいや、貰えるものは貰っておこうかな。
◇ ◇ ◇
しばらく泣きわめくマネをしていると徐々に人が集まってきた。
「――おい、企画の課長さんだけじゃなくて課長補佐や下の階の人たちも真っ二つになったって!」
やば……。これは隠れていたほうが正解かもしれないわね……。
私はウソ泣きをスッと止めて立ち上がると、階段を上って見晴らしの良い八階の喫茶スペースを目指した。
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