第484話 244『冬籠り考察』

「原則、冬籠りとは冬の厳しい寒さをやり過ごすための事を言う。

 これの準備としては大きく2つ。

 竃や暖炉の薪……これはどちらかと言えば暖をとる為と言う方が大きい、それと一冬越せるだけの食料を用意する事だ」


 それは前世で夢中になって読みふけっていた、あのファンタジー小説の世界のようだ。

 あの主人公も晩秋になると支度を始めていた。


「わかりました。

 とりあえず、薪と食料ですね」


 これはどこにいたとしても必要だ。


「リーナ嬢が首都で冬を迎えるとしても、住居の問題があるな。

 それなりの金額になるが一冬を宿で越すと言う案と借家を借りるか、一番いいのは学院の寮に入寮する事だが、これは合格後だしな。

 一応私の方から推薦状を送っておくが」


「よろしくお願いします」




 この後アンナリーナはオルドメーシェからひとりの女性を紹介された。


「はじめまして、ポリーナです。

 一応魔法職のギルド職員です。

 オルドメーシェ様の代わりにリーナ嬢の教育係を仰せつかりました」


 またまたエルフのお姉さんである。

 淡いブロンド、青い瞳の典型的なエルフの姿にアンナリーナは憧れの目で見つめてしまった。


「リーナです。よろしくお願いします」


 ペコリと会釈したアンナリーナは、人懐こそうな笑みを浮かべた。

 こうしていると、年相応の少女にしか見えない。


「オルドメーシェ様からひと通りすべての事を教えるように言われたのですけど……」


「あの、それは私の家族たちが揃ったところでお願いしていいですか?」


 今、イジとネロはセトと共に討伐依頼を受けて大森林に行っている。

 予定では夕方にも帰ってくるはずだ。


「はい、構いませんよ。

 でもせっかくですからリーナ嬢の個人的な質問とかないですか?」


 正直言ってわからない事だらけである。


「あの〜 冬籠りの間、冒険者の方々はどうなさっているのですか?」


 アンナリーナ、素朴な疑問である。


「そうね、その個人個人によって色々なのだけど、冬の間でも依頼はあるの。ただ、難易度は何倍にもなるの。

 例えばマーダーシルバーフォックスは冬毛の価値が高くて依頼も多いの。

 だから身体機能上昇(耐寒)のスキルを持つ冒険者が優先的に請け負っているわ」


 これは良い事を聞いた。

 フォックス系の魔獣の冬毛……


「兎系やミンク系の魔獣の毛皮はどうなのです?」


「ミンク系……というのはわからないけど、兎は庶民の防寒着に使われるわ」


 属性魔法が使えるようになったら、狩りに行っても良いかもしれない。


「2つ目は、これは結構な数がいるのだけど……護衛依頼を受けて、寒さがそれほど厳しくない地域に行くの。

 かなりの数の商人が移動するので、結構需要はあるのよ。

 そして最後は、この町で大人しく冬籠りする人たち。

 これは下位の冒険者に多いわね」


「ほおぅ〜」


 アンナリーナは、上手く隊商にもぐり込めれば良いが、そうでなくても自前の馬車で向かうつもりでいた。

 インベントリの物は取り出し可能だと確かめてある。


「精霊召喚が終われば、なるべく早く首都に向かいたいと思います」


 この大陸は北の方が温暖なようだ。

 アンナリーナが今いる【魔人領】は、前世の南半球、南米大陸の最南端のような位置にあるのだろう。

 魔族とエルフと雑多な種族の混じった、ザ・ファンタジーと言うべき国。

 アンナリーナは首都へと思いを巡らせていた。

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