第476話 236『多忙なアンナリーナ』

 それからわずかな期間でアンナリーナは、自分たちの環境を調えていった。


 まず、先立つものを手に入れるために、ギルドで買い取りを願い、それなりの金額を手に入れた。

 これは、体力回復ポーションはともかく、この国にもなかった魔力回復ポーションの存在が大きかった。

 アンナリーナがこれらのポーションを持ち込んだあと、ギルド側はその効能のテストをかなり細かく行ったらしい。

 そして体力回復ポーションの回復値の高さと、魔力回復ポーションが有効である事を証明して……それからが凄まじかった。

 このドゥンケルスは旧魔族国で、現在は魔人領である。

 その成り立ちから魔族が多く、次にエルフ族が多く住んでいた。

 そして双方共に、主に魔法を使って戦うのだが、その際に重要なのは残存魔力量だ。

 この魔力と言うものは一定期間置かねば回復せず、魔法職を困らせてきた。

 だが、アンナリーナの魔力回復ポーションがあれば、それも過去の事となる。

 このポーションはほかのものと違って数がないため、恐ろしい値で買い取られていった。

 魔力回復ポーション10本だけでびっくりするような金子が手に入ったのだ。



「まず、今ここにいる皆に【言語変換】のスキルを付与します」


 いつまでも言葉の壁に悩まされている場合ではない。

 アンナリーナは古代エレメント語を理解するが、これからこの大陸で活動するには言葉は必須だ。

 だからアンナリーナは久し振りに【ギフト】を用い【言語変換】を取得した。それを皆に分け与えるのだ。


「まだしばらくはこの町にいると思うけど、次はもっと大きな町に行ってみたいのよね。

 もちろん首都にも。

 だからここでは出来るだけ稼いでおきたいの。

 先立つものは何とか、って言うからね」


 テオドール、セト、イジ、ネロが頷いた。

 そして彼らに見送られて、室内に設置したテントからツリーハウスに戻ると調薬室に直行した。

 それからアマルを助手にポーションを作り始める。

 各種体力ポーションは【調薬】のスキルでまとめて作成する。

 瓶にラベルを貼って木箱に収めるためにアラーニェとガムリが助っ人だ。

 次に、効果の高い魔力回復ポーションを作るのには一部手作業が必要になる。


「ご主人様、追加のイータ草、採ってきました」


 ひと抱えもあろうかという籠を持ってきたのはツァーリだ。

 今、居残りの眷属たちは手分けをして素材の採取を行っている。


「ありがとう。

 引き続き、サラン草、セツメの実の採取もお願い。

 ンゴルンゴはギルドに採取依頼を出すことも考えて。

 トラサルディとマチルダさんを呼んで!」


 アンナリーナは今、猛烈に忙しい。




 ようやく一区切りついて、アンナリーナはテオドールたちの待つ宿の部屋に戻ってきた。

 だがそこにはネロしかいない。


「あれ?熊さんたちは?」


「皆さんはギルドに依頼を受けに行かれましたよ。

 腕慣らしと実益を兼ねているらしいです。

 私はあまり役に立ちませんからね」


 骸骨顔のネロが笑う。


「そうだね。

 お互いに属性魔法が使えないと不便だよね」


 火、水、風、土を代表とする四大魔法と、そこから派生した氷や雷、そして光と闇、聖属性の魔法が、今すべて使えない。


「今まで先延ばしになっていたけど、一度魔法に詳しい人と話してみたいと思うの。

 この町だったら冒険者ギルドのフミラシェさんかな」


「私もご一緒してよろしいですか?」


「もちろん。よろしくね、ネロ」



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