第474話 234『ブエルネギアの市場』
アンナリーナはその場でローブを着替えると、隣接する解体場の方から外に出た。
いつものクリーム色のローブから目立たない茶色のローブ、フードは外してニットの帽子。背にはくたびれたリュックを背負っている。
『主人、大丈夫だろうか?』
『うん、今のところ誰も追ってきてないね』
【気配察知】と【悪意察知】を展開して警戒しているが、今のアンナリーナの姿を見て、同一人物とは見分けられないだろう。
『このまま市場に行って少し買い物してみようか。
あれば図書館にも行ってみたいし、本当鬱陶しい奴らだね』
そう、セトと念話で遣り取りしながら、歩みを進める。
ブーツも市販品に似せるなどの気の使いようだ。
シャールカに聞いてやってきた市場は、午前中の賑わう時間を過ぎていたためアンナリーナにとっては歩きやすい。
『向こうとあまり変わらないわね』
古今東西、市場の形状などはあまり変わりないようだ。
アンナリーナはなるべくキョロキョロしないように、ひとつひとつの店を観察していく。
そして気づいたのは、農産物の売り子は小人族(ホビ○ト)が多いと言う事。
あちらの大陸では見かけた事がなかったため、アンナリーナのテンションは上がりっぱなしだ。
「こんにちは」
片言のエレメント語で話しかけた。
「この、果物は、どのような味なのでしょうか?」
「お客さん、ここら辺の住人じゃないんだね?
これはペメモッチと言ってね。
もちろんこのまま皮をむいて食べても美味しいけどジャムも絶品だよ。
あと、肉料理のソースに使ったり煮込み料理の隠し味にも使ったりするよ。
ほら、味見してごらんよ」
そう言って、小太りのおばさんホビ○トがリンゴに似た果実を渡してきた。
表皮はオレンジ色。
齧ってみると食感はリンゴだが果肉が水色をしている。
……味は前世のふ○に似て酸味は抑えめで甘みが強いのだが、見た目は違和感満載だ。
「美味しい」
「そうだろう?
うちの農園のペメモッチは領都でも評判なんだよ」
「ぜひ購入させて下さい。
どの程度の量、売っていただけるでしょうか」
「どれだけでも。
でもあんた、持つのに限度があるだろう?」
「収納袋を持っています。
では、この籠、5つ分いただけますか?」
「あいよ。全部で銀貨3枚。
ちょっと割高になるけど、ちょうど昨日から出荷し始めた新物なんだ。
そのかわり、絶対美味いからね」
アンナリーナはコクコクと頷いた。
そして次の果物に興味を移す。
それは見かけは、前世のパイナップルに似た果物だった。
「これは何ですか?」
売り子の、手元に近いところに3個だけ置いてあるそれになぜか惹かれる。
「これは魔果物のダリモア。
マンドラゴラ系魔植物の亜種なんだ。
まず葉を落として皮を剥くんだけど、気をつけないと “ 暴れる ”んだよ」
暴れる果物……初めて聞いた。
「この国にはワイルドな植物がいっぱいいるんだよ。
野菜でも気絶させないと調理すら出来ない奴がいるんだ。
八百屋、紹介してやるから行ってみるかい?」
「ぜひ!ぜひお願いします!」
もう、拝み倒さんばかりのアンナリーナに、ホビ○トの中年女性は笑顔を見せた。
アンナリーナはこの日、生物の神秘を深く感じたのだった。
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