第472話 232『現金調達』

 小首を傾げたアンナリーナが見つめている。


「出しておいてなんですが、この私の作ったポーション、こちらの大陸の方に効くのでしょうか?」


 少し不安なアンナリーナに、もうすでにフル鑑定したフミラシェと、新たにやって来たエルフの鑑定士は自信を持って頷いた。

 代表で鑑定士が口を開く。


「問題ありません。

 むしろ、とても上質なポーションです。

 特にこの【魔力回復ポーション】

 こちらはこの大陸にはないものです。

 当ギルドではぜひ、リーナ嬢とお取引願いたく思います」


 横でフミラシェが頷いている。


「それは……私としてもよろしくお願いしたいのですが、それには査定が必要なのでは?

 実は……真に恥ずかしいのですが、今現在貨幣の持ち合わせがなくて……両替ができなければ素材を買い取っていただくしか手段がなくて……」


 最後は恥ずかしさのあまり、消え入るような小声になってしまう。

 その姿があまりにもかわいくて、2人のエルフは密かに萌え悶えていた。


「ご心配なさるな。

 私が立て替えておこう。

 両替は……今は正確な交換の相場がわからぬゆえ」


 フミラシェがそう言って、懐から巾着袋を取り出した。


「とりあえず、キリの良いところで金貨10枚。

 心配しないで。ちゃんと納金伝票に記載して引かせていただくので」


「では、遠慮なく。ありがとうございます。

 ……あの、それと私が調薬している他のものを置いて行くので、鑑定してもらえますか?」


 もちろん、徹夜すら歓迎して鑑定士は快諾する。

 それからアンナリーナは鑑定室に移り、主だった薬類とポーション類を取り出した。

 途端にいっぱいになった机に目を見張り、慌てて目録を作成する鑑定士。

 アンナリーナはようやく収入を得る手段が出来てホッとしていた。

 次は宿である。

 これに関してはフミラシェの秘書の女性が待ち受けていて、わざわざ案内してくれた。


「リーナ嬢、私はシャールカと申します。種族は魔人族です。

 これからリーナ嬢専属の職員になりますので、どうぞよろしくお願いします」


 にっこりと笑う妙齢の女性は、よく見れば耳が尖っている。


「こちらこそ。

 お仕事を増やしてしまってごめんなさい」


「そんな事、なんでもないわ。

 ここだけの話、フミラシェ様の補佐は退屈なの。

 リーナ嬢は重要人物ですもの。

 よろしければ町を案内させていただくわ」


「ぜひ!よろしくお願いします」


 2人はがっしりと握手した。




 夕餉を共に、と言ってきたフミラシェに断りを入れ、アンナリーナは紹介された宿に落ち着いた。

 鍵を掛け、室内に結界を張り、テントを取り出す。

 すると、茶器を持ったアラーニェが姿を表した。


「お疲れ様でした。

 お茶でも召し上がって、ゆっくりなさって下さいませ」


 アンナリーナの調合した、疲れの取れるハーブ茶の良い香りが広がる。

 ティーカップを持ち上げ、口をつける姿に微笑みを浮かべて、アラーニェはブーツの紐を解き始めた。


「お風呂の用意も出来ておりますよ。

 夕餉の前にさっぱりしてしまいましょう」


 アラーニェの手によって磨き上げられ、マッサージされる。

 あまりの気持ちよさにウトウトしてしまうアンナリーナだが、きれいに拭われていて目が覚める。

 そしてアンナリーナが留守中に新調されたナイトドレスとガウンを着け、食堂に向かった。



『主人、誰か来たようだ』


 宿の部屋に残っているセトから念話が届く。


「こんな時間に誰かしら?」


 少なくても、女性を訪ねるには良ろしからぬ時間である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る