第471話 231『ブエルネギア大陸の冒険者ギルド』

 ギルドマスター【フミラシェ】との話はエンドルティーノと重複することが多かった。

 そして一番聞きたがったのは、船の遭難の話だ。



「ではリーナ嬢は、その魔獣を直接見ていないのだね?」


「はい、姿は見ていません。

 最後は船体が割れて……沈んでいきました」


 俯いて哀悼の意を表したアンナリーナを、エルフの菫色の目が見つめている。


「私たち4人は船が沈む前に小船に乗って脱出することが出来ました。

 そして……どのくらい海の上にいたのか、私はわからないんです」


 フミラシェは無理もないと思った。

 見た目よりはいくらか年嵩だろうが、それでもひ弱な少女だ。

 おそらく、過酷な漂流生活は彼女の体力も精神力もそぎ取った事だろう。


「それで、上陸してからはどうしていたのかね?」


「はい、初めは森を抜けようとしたのですがすぐに諦めて……

 それからは砂浜を歩きながら、時々森に入ったりを繰り返して、そのうち一人欠け、二人欠けて」


 アンナリーナの芝居掛かった様子に、すっかり騙されたフミラシェはそこで話を止めさせた。


「よくここまでたどり着けたねえ。

 お連れの方々はひょっとしたらひょっとするかもしれないから。

 気を落とさずに、私も何でも相談に乗るゆえな」


「はい、ありがとうございます」



 この後、アンナリーナは無事自分とセトの登録を終え、現金を得る算段を始める。


「マスター、私この大陸の貨幣は一切持ってないのです。

 現金を得る手段を、できれば素材を買い取っていただければ嬉しいのですが」


「珍しい、あちらの大陸の素材だ。

 鑑定士を交えて買わせていただこう」


「エンドルティーノさんに、こちらで両替をお願いできると聞いたのですが」


「両替も良いが、私はリーナ嬢の作ったポーションに興味があるのだよ。

 よければここで、見せて欲しい」


 アンナリーナはウエストポーチからアイテムバッグを取り出し、そこから中級体力ポーションCを2本出した。


「お改めください」




 海の向こうからやってきたと言う少女は、底知れぬ力を持つ、末恐ろしい存在だった。

 エルフとしてもう1000年以上生きているフミラシェとしても、自らの鑑定能力では彼女の能力を覗き見ることが叶わなかった。

 その魔力は底なしと言って良いほど奥深い。

 基本、純潔主義のエルフでも、この少女の能力を取り込む事が出来るなら、迷わず契りを交わすだろう。

 自分とてあと200若ければ……いや、今からでも決して遅くはない。


 そんな目で見られているとは知らずに、アンナリーナは魔力回復ポーションも出してくる大判振る舞いだ。

 他にオークキングやクリムゾンバイパーの素材も出して鑑定士を待つ。

 すでに鑑定を終えたフミラシェが、熱のこもった目でアンナリーナを見つめていた。

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