第464話 224『魔法使用に至るための考察』

 それはいつもと同じように現れた。

 ホッとしたアンナリーナは次の瞬間ギョッとする。


「何これ」


 ステータスを表す、アンナリーナだけに見える半透明のパネル。

 それはズラリとスキルが並んでいるはずだった。



 アンナリーナ 16才

 職業 薬師、錬金術師、賢者の弟子

 

 体力値 1562/1580433958400

 魔力値 564/112895208784710608


 以後記載不能




「ちょっ……何が起きたって言うの?

 ナビ、ナビはいる?!」


『……はい、主人様』


「これはどう言う事なの?教えて!!」


『主人様、私も混乱しています。

 こんな事、はじめてなので……

 しばらくお時間をいただけますか?』


 そう伝えてくると、アンナリーナの返事も待たずに接続を断ってしまう。

 それがアンナリーナの不安を一層強くした。


『主人、何度も言うが少し落ち着いてくれ。

 ひとつひとつ確かめていこう』


「うん、うん」


『まずは体力値だが……』


「本当ならいくら体力を使っても日付が変われば元に戻っているはずなのに……なのに今は4桁しかない。

 魔力値も一緒なの。

 こちらは3桁しかないわ」


 状況が理解できず、泣きそうなアンナリーナを宥めて、セトが続ける。


『主人、俺は主人のステータスを見ることが出来ない。

 主人が教えてくれるしかないんだ』


「セト!

 教えるも何も、それ以外、スキルが表示されてないの!

 どうしよう……私、魔法が使えなくなっちゃったのかな」


 これにはセトも焦ってしまう。

 まずはパニック寸前のアンナリーナを落ち着かせることが先決なのだが、自分も今はこの体たらく。

 そして自分は魔力が完全に枯渇しているようだ。


『主人、先程は【ライト】【ファイア】【ウォーター】とその上位魔法が発動しなかったんだな?

 その他はどうだろうか?

 ステータスは開けたんだろう?』


 アンナリーナは息を呑む。

 ステータスが見れたということは、魔法が発動していないわけではない。


「そうね、そうね……【鑑定】」



 セト(ブラックドラゴン変異種、アイデクセ変化、雄)

 体力値 856/152649204975934

 魔力値 124/6853492653045


 以後記載不能



「セトも酷いね」


 アンナリーナに笑みが浮かんだ。

 これは、自分だけでなかった事による安心感なのか、それともただ緊張がほぐれただけなのか。


「この【記載不能】と言うのは単に載せられない、と言うことなんだと思うの」


 そう思っていたい。


「次は……」


 緊張で言葉が出ない。

 これからトライする事がもし発現しなければ、これからのアンナリーナの行く先は暗雲が立ち込めるどころではないだろう。


【異空間収納、インベントリ】


 いつもは唱える事すらないのだが、アンナリーナはやや硬い声でそう言い、目を瞑った。

 その瞬間、アンナリーナの手に現れたのは黄色い鞄……薬師のアイテムバッグだ。


「やった!

 インベントリから取り出す事が出来たよ!!」


 これでこれからの行動が楽になる。

 そして少し考察する余裕が出てきた。


「これで空間系の魔法は使える事がわかったね。

 よかった〜」


『主人、ここは一度、家に戻った方が良いのではないか?

 皆、心配しているだろう』


「それもそうね」


 アンナリーナは岩陰に転移点を設置しようとして、固まった。


『主人?』


「どうしよう……

 セト、転移点を作る事が出来ない」


 アンナリーナの目から大粒の涙が零れ落ちた。

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