第453話 213『船長室』

 傍目から見れば、デッキで船旅を楽しむアンナリーナとテオドール、そして付き従う護衛たち……に見えるアンナリーナたち一行だが、その実アンナリーナは彼女だけが見えるマップで不審者、いや強盗団の動きを追っていた。


「ふ〜ん、殆どの者がある部屋に集まっているわね。ここは……一体誰の部屋かしら」


 そうこうするうちに、3人ほどを残して、あとのものは皆二等客室に戻ってしまった。


「さて、そろそろ動きがあるんじゃない?」


 アンナリーナの指摘通り、船長の元には窃盗の報告が次々と入ってきている。

 船長室は最早パニック状態で、詰め掛けてきた乗客で騒動が起きかけていた。



 騒動が静まった夜、話が聞きたいと呼び出されたアンナリーナは、見た目は静々と、中身はワクワクしながら船長室に通された。


「ようこそ、リーナ嬢、テオドール殿」


 慇懃な態度でソファーを指し示すと。


「どうぞお座り下さい」


 と、言った。

 他者から見て、この一行ほど怪しい者たちはいない。

 だが、彼らには覆せないほど完璧なアリバイがあった。

 その一部は自分自身も目撃したし、なによりも複数の者が彼らが出港から夕刻近くまでずっとデッキにいたことを証明していた。


「いきなりだが教えて欲しい。

 なぜ、あなた方の部屋は無事だったのか?」


「それは私が【結界魔法】を使えるからですわ。

 そして私の結界に触れたものを監視していましたの。

 そちらが信じてくださるかどうかはわかりませんが、私の結界に触れた不審者の行き先は、把握しています」


 それこそは船長が、そしてこの船の保安部が知りたい事だった。

 そしてこの場では保安部長が身を乗り出した。


「リーナ嬢は【索敵】のスキルもお持ちなのですか?」



「ええ。

 結論から言えば、彼らはある部屋に集合し、今は二等客室にいます」


「それは……」


「実行犯は全部で12人。

 私は強盗団だと見ています」


 船長を始め、この部屋にいた船員たちが騒つく。

 アンナリーナは興奮しきった皆を鎮めようと、アイテムバッグ(ウエストポーチ型)から茶器を取り出し、お茶を淹れ始めた。


「どうぞ」


 船長と保安部長にはマイセンの茶器で、あとの船員にはマグカップで供された。


 熱い茶が胃に染み渡る。

 と同時に、ささくれ立った心が落ち着いていくのを感じた。


「こちらがもてなさないといけない側なのに申し訳ない」


 船長はようやく落ち着いたようだ。


「では、本題に参りましょうか。

 ……この図を見ていただけますか?」


 アンナリーナが取り出したのは、脳内マップを書き写したものだ。


「これは」


 船長はあまりにも詳しく書かれた図を見て、先程納めたはずの疑念が浮かんでくる。だがアンナリーナの次の言葉に目を見開いた。


「私の脳内マップを図に起こしました。

 この部屋が誰の部屋か、船長ならわかりますよね?」


「これは……まさか」


 一等客室の、いわゆるセミスイート。

 アンナリーナたちの部屋と比べると幾分落ちるが、それでも富裕層しか取れない部屋だ。

 そして件の部屋は、アシードの大店の分家筋の女商店主、という触れ込みの女性の部屋だった。


「なるほど、だから今回はやたら二等客室の乗客が多かったのだな」


 しみじみ、といった様子で保安部長が口にする。

 今、この船には強盗団が入り込んでいるのだ。

 背筋に冷たいものが伝った。


「しばらく様子を見るしかないですね。

 下手に大立ち回りになると、乗客に害が及ぶかもしれません」


 保安部長がハッと息を呑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る