第422話 182『港湾都市アシード』
「想像はしてたけど……賑やかだねぇ」
アンナリーナは周りの喧騒に目を奪われていた。
ここは【港湾都市 アシード】
ようやく本拠地に戻ってきた隊商組は、見るからにホッとしている。
「リーナ殿、何から何まで本当にありがとう」
バルトリが、服が汚れるのも構わず、膝をついてアンナリーナの手を取る。
そして額に押し戴いて感謝の意を表した。
だが、これからバルトリを始め隊商組は忙しくなる。
今回の襲撃で死亡したものたちの家族への説明や、遺体や遺品の引き渡し、それにこの町の憲兵隊での取り調べも待っている。
次に向かったのは乗り合い馬車の駅だ。そこで預かっていた馬車を出し、これでダマスクたちともお別れだ。
アンナリーナと冒険者たちも別れを惜しみ、そしてその場を後にした。
一行と別れたアンナリーナとテオドールは港に向かった。
まず、大陸に渡る船の運航を確かめなくてはならない。
「リーナ、もし近々に出航予定があれば、どうする?」
「ん〜 次の便との間隔によるかな。
さすがに1年とかになったら考えるよ」
例の偽薬師の件も気になるが、大陸に渡航する船は限られている。
アンナリーナはバルトリに聞いた船会社へと、歩みを向けた。
結果、次の大陸渡航便は順調にいけば4ヶ月後であって、アンナリーナはその場で内金を入れて予約する。
「4ヶ月……
何とかその間に目処がつけばいいのだけど」
「普段は普通の冒険者としているのかもしれんな。こいつは面倒だぞ」
「仕方ないよ。時間切れになったら渡航を優先する。気になるけどそれで渡航をずらすのは本末転倒だから」
「そうだな。
ところでこれからどうするつもりだ?」
「うん、その事なんだけど……」
アンナリーナは俥屋で、2頭引きの4輪箱馬車を購入した。
その場でエピオルスを出して調整してもらう。
これはこれから、例の偽者捜索のために使う馬車だ。
「また、思い切ったもんだな」
「そう? 前から欲しかったんだけど機会がなかったんだよね」
アンナリーナの経済観念は狂っている。
これはいつもテオドールが頭を悩ます案件である。
「リーナ」
「じゃ、次は市場をうろつこうか。
ひょっとしたら、まだ見ぬ鍋との出会いが……」
「鍋は、もういいだろう?」
学研都市での買いっぷりは、今でも夢に見そうである。
「何言ってるの、熊さん。
地域によってそれぞれ、形や素材の違う鍋が……」
始まってしまった、アンナリーナの鍋うんちくに、耳を塞ぎたくなるテオドールだ。
数日後、宿の前につけられた箱馬車に、裕福な商家の娘を装ったアンナリーナが、侍女に扮したアラーニェを連れて乗り込んだ。
御者はガムリが、その隣に護衛としてテオドールが座っている。
「リーナ様、うつけ者らは街道沿いには出没しないと言われています。
このような事をしても網にはかからないのでは?」
「私は、捕まえる事にこだわっているわけではないから。
情報収集ができればいいと思ってるの」
「私はリーナ様が、心安らかにお過ごしくだされば、それで良いと思います」
ガタンと振動して馬車が動き出した。
エピオルスたちは心得たもので、街中ではゆっくりと進んでいく。
そして門を通り抜け、街道を北に向かって走り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます