第417話 177『騙り者』

「さて、この後ですが、明るいうちに小休止してエピオルスを変えます。

 今夜はそのまま、一晩中走らせ続けて様子を見ます。

 そのあと異常がなければ……皆さんの過ごし方を考えます。

 何かご質問は?」


 バルトリはかぶりを振った。


「まあ、初日にくらべればずいぶんマシになってるんですよ。

 あの時はかなりきわどくて……

 今も、一応後を追ってきてますけど、そろそろ諦めるんじゃないですかね」


 バルトリは一気に背筋が寒くなったのだろう。

 小さく身体を震わせて、居心地悪そうだ。



 翌日から複数のエピオルスを召喚して、護衛たちが2班に分かれて並走する事になった。

 昼間の短い時間だが、馬たちも運動がてら走らせてもらい、そうこうしながらも【衛星都市グハームト】に到着した。

 出発して5日目。馬ではあり得ないスピードだった。




 バルトリと相談した結果、アシードまではこのままアンナリーナの馬車で行く事になる。

 グハームトでは2泊し、それなりの量の食材を購入して旅立つことになった。

 護衛たちは身も心も洗濯したのだろう。

 アンナリーナの懸念も払拭され、これから先は通常通り夜は野営をして行こうと思っていたところ、護衛のひとり、冒険者のシーメイがその情報を聞き込んできた。



「あ〜 えっと、リーナ殿、ちょっといいか?」


「? はい」


 また、トラブルの予感。

 そしてその予感は、嬉しくないことに当たってしまう。


「率直に言うと、リーナ殿、あなたたちの偽物が出ている」


「は?」


「最近このあたりで薬師を騙った4人組が出没しているらしい。

 粗悪な回復薬をポーションと偽って売ったり、薬師だと言って厚遇を要求したりしているそうだ」


「何それ!」


 薬師だと騙るのはともかく、回復薬をポーションとして買い取るとはどういう事だ。

 鑑定もせずに買い取っている杜撰さに、そちらの方に怒りを覚えたアンナリーナからは黒いオーラが立ち昇っている。


「その話、誰から聞いたの?

 詳しく聞きたいから、連れて行って」


 有無を言わせぬ様子に、シーメイはタジタジとなる。


「わかった、わかったからの威圧しないでくれ」


 この後、アンナリーナはテオドールと共にシーメイを案内として、まずは酒場へと向かった。

 そこの女将によると半月ほど前、突然現れた女が薬師を名乗り、粗悪な回復薬を売ったり、回復薬をポーションと偽って売りつけたりしたようだ。

 ちなみにアンナリーナはその頃、アルファ・ケンタウリにいたことが確認できるため、彼女ではあり得ない。


「うちは大丈夫だったけど同業者が何軒かやられたわ」


 盲点だったのだが、ギルドや薬局に卸すのではなく、宿や酒場に売り込んだらしい。


「それは……鑑定できる人なんかいないわよね」


「あとはこの近辺の小さな村でもあったみたい」


 アンナリーナは憤慨する。

 回復薬やポーションは、冒険者や村民にとっては命に直結するものだ。

 それを、旅の薬師を騙って偽物を売りつける。

 そんなことアンナリーナには許せない。


「それで、被害は?犠牲者の命は?」


 アンナリーナの声が震えている。


「冒険者が負傷した時にポーションを使ったの。傷にかけても変化がないので気づいたみたいなの。

 その時はパーティのメンバーに分けてもらって事なきを得たわ。

 そしてそのポーションを買った宿屋に駆け込んだのよ」


「許さない……!」


  “ 絶対に犯人を捕まえてやる ”と、怒りに満ちたアンナリーナはそう決心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る