第312話 72『ダンジョン探索開始』
ここは去年訪れた時よりも、幾分落ち着いていたが、それでも低層はかなり賑わっていた。
「1、2、3階層は一気に駆け抜けるよ!邪魔にならない限りは魔獣は無視で。じゃあ、行くよ!!」
アンナリーナの斜め前をセトが守り、テオドールが真横に着く。
アンナリーナは【飛行】を使って浮遊し、緩めの結界を展開させて目の前を遮る魔獣を弾き飛ばして行く。
このあたりは蝙蝠や鼠の類の魔獣しか出ないため、関心を示さない彼女らはどんどんと進んで、5、6階層に来る頃には、他の冒険者の姿はまばらになっていた。
「ここからは各自対戦して行ってもいいよ。
熊さんも暴れたいでしょ?
特にツァーリはどの程度出来るか見せて欲しい」
この階層の魔獣はコボルトや狼種など、非魔法職でも十分闘える種族なので、まずテオドールと共にツァーリが向かう。後方はイジが受け持った。
セトはアンナリーナの護衛に徹する。
そのまま8階層まで突っ切った。
「現在、公式には9階層到達が記録だから、今夜は11階層まで行って野営しましょう」
10階層は石化の効果を持つ魔獣が多い階層だ。
ここを無事、通過出来るものはそうそういない。
「では、ハンバーグ村はサクッとやってしまって、さっさと降りていきましょう」
ミーティングが終わって解散したなか、アンナリーナはツァーリを呼び止めた。
「ツァーリ、次の階層はあなたのいたところだわ。
大丈夫? もし……」
「主人様、私は大丈夫です。
たしかに見た目は同じですが、アンデッドになったことで別の種族になったようです。
ミノタウロスの肉を食べることに忌避感もありませんし。
お心遣いありがとうございます」
「そう、よかった。
何か気づいたことがあれば遠慮なく言ってね」
そして蹂躙はサクサク進む。
「では、デラガルサダンジョン初日の探索、お疲れ様でしたー!」
当初の予定通り、第11階層の奥、下の階層への階段の手前に野営地を設けたのだがこれがまた規格外で、もし目にするものがいたら驚愕するだけではすまないだろう。
均された地面に馬車が出現し、タープが張られてテーブルと椅子が配置されている。
馬車の拡張空間経由でツリーハウスから現れたアンソニーとアラーニェが料理を配置し、夕食が始まった。
「こうして皆で揃って食事するのは初めてだね」
嬉しそうにしているアンナリーナの前にはジルヴァラやガムリもいる。
そして今夜のメインディッシュはオーブンで焼いたオークのスペアリブだ。
しっかりと下味をつけて、付け合わせの野菜と一緒に焼いたスペアリブは、たっぷりと用意され、基本肉食のセトやイジを喜ばせる。
添えられたマッシュポテトとスプラウト。それに具沢山のマカロニサラダがいくつもの大皿に盛られ供された。
アンナリーナの故郷の味、醤油とみりん、砂糖で味つけられた、ホクホクのかぼちゃの煮物や以前アンナリーナが大量に買い付けていたアスパラガスのソテーもピリッとしたマスタードソースが美味しい。
甘みたっぷりの完熟トマトは塩だけで食するようになっていた。
「アンソニー、アラーニェ、今夜もとっても美味しいご飯をありがとう」
「今夜は英気を養っていただくために肉をたっぷり用意させてもらいました。明日からも楽しみにしていて下さい」
もう、明日の仕込みに入っているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます