第267話 27『ハンネケイナへの里帰り』
魔法学院は元々貴族の子女が通う教育機関のため、社交界の日程に沿った授業スケジュールになっている。
駆け足のように過ぎ去った2学期を振り返り、アンナリーナは出立の準備をしていた。
「リーナ様、今回のダンジョン行は腰を据えて階層攻略なさるのでしょう?」
「う〜ん、攻略にこだわっているわけじゃないし、時間の調整がメインだから」
今回、アンナリーナはハンネケイナに “ 里帰り ”するつもりだ。
本来なら、少なくとも20日はかかる道中を一瞬で転移できるアンナリーナは、その差違を有効利用しようと思っている。
「いくら何でも学院が夏休みを迎えてすぐにハンネケイナに姿を現したら、あとで辺境伯の耳に入ったら拙いでしょ」
便利な移動手段があっても、色々と悩みは尽きない。
「ドミニクスさん、久しぶり!!」
「リーナさん!学院は?」
ハンネケイナの冒険者ギルドに飛び込んだアンナリーナは、カウンターにドミニクスの姿を見つけ飛びついた。
「リーナさん、しばらくぶりですね。
……王都の貴族の学院に入学して、淑女になっているかと思っていたら……変わりませんね」
「酷いですね〜
これでも王宮のお茶会やパーティに行ったんですよ」
そして2人は笑いあった。
「では鑑定室に行きましょう。
今日はテオドールは?」
「この後クランハウスで合流予定です。その前に、もし時間があったら町をぶらぶらしようかと」
「あまり遅くならないように。
最近は何かと物騒ですので」
そしてアンナリーナは、この日の為に作り貯めてきたポーションや薬を卸し、結構な金額を手に入れた。
その様子を、カウンター嬢から下働きに降格になったミルシュカが睨みつけていた。
「リーナ〜」
【疾風の凶刃】のクランハウスでは、エメラルダに抱きつかれたアンナリーナの姿があった。
「エメラルダ、やめなよ。
リーナが困っている」
アーネストがエメラルダを引き剥がしにかかると、目に見えて不機嫌になって唇を尖らせた。
「だってぇ、久しぶりなんだもの」
「おまえら、いい加減にしろ!」
奥から聞こえてきた声に、アンナリーナが嬉々として振り返った。
「熊さん!」
その夜、クランハウスでは賑やかな声が途切れる事がなかった。
ふらりと訪れた森はいつもより闇が濃く、静寂に満ちていた。
ハンネケイナの町の外に広がる、いつもなら子供らでも食材を採りに入る森らしくもなく、ざわざわとした気配がする。
「何かしら?」
【探査】の精度をあげ、ゆっくりと周りを見回してみる。
すると森のかなり奥、少し木々の拓けたところに何やら2つの気配が感じられる。
「ひとつは魔獣、もうひとつはヒト、かしらね」
アンナリーナはゆっくりと近づいていった。
すると間もなく、女の悲鳴が聞こえてきて魔獣の唸り声と何かを強くぶつける音が聞こえてきた。
そっと木々の間を抜けながら現場を観察してみると、三つ目熊がピンクゴールドの髪をした少女を今まさに襲わんとしているところだった。
ピンク頭に良い思い出のないアンナリーナは無意識に【鑑定】していたのだが、それには思わぬ結果が現れていた。
「【魅了】持ち!?」
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