第260話 20『襲撃の顛末』

 今アンナリーナは、ミハイルと共にハンスの鍛冶屋工房を訪ねていた。


「そちらに不都合のない程度に、鍋を買わせて下さい」


 一年前ここに来たときに買った鍋は、今はもうずいぶん数を減らしている。

 単純に調理するだけなら【異世界買物】で購入した方が使い勝手がよいのだが、例えば野営などで他の人間の目に触れる場合はどうしてもこの世界のものを使うし、鍋ごと料理を譲ったりしたので残り少なくなっている。


「ああ、こちらこそ頼む」


 そんな感じで始まった訪問だったが、鍋釜を選びながらもすぐに本題に入る。


「それで……この村を襲った盗賊団のことですけど、捕まったんですか?」


「いや、エイケナールから討伐隊が出て、ずいぶん大掛かりに捜索したんだが……いくつかの手掛かりがあったそうだが未だに捕まっていない。

 それどころかデラガルサを挟んだ向こう側で、襲撃が相次いでいるそうだ」


 国境を越えての荒仕事に、アンナリーナは表情を歪める。

 この手の盗賊団は、国同士の連携がないことを十分把握していて、追っ手が領主の私兵や国軍であった場合は国境を越えることがない事を逆手にとって好き勝手しているのだ。


「……それで、ここが襲われたときはどうだったの?」


 そこからは、出来れば耳にしたくないほど悲惨な状況だった。

 デラガルサ特需で今までになく潤っていたとはいえ牧歌的なモロッタイヤ村では、領主の私兵である門兵の数も十分でなく、最初の襲撃で無力化された後はもう、盗賊団のやりたい放題だった。

 もとより武器を持たない村人たちである。

 幸い、村の奥の開墾に人手が回され無人の農家が多かった事が人的被害を少なくした。

 それでも犠牲者が出なかったわけではない。


「門番として村に常駐していた兵が8人、食料品店の一家6人、農家3軒合計5人、そしてサリー。

 連中は手っ取り早く金がありそうな宿屋と商店を襲った」


 アンナリーナの頭の中が怒りと哀しみでいっぱいになる。


「アンソニーは裏の小屋で料理の下ごしらえをしていたそうだ。

 異常に気づいて宿に戻った奴が見たのは……剣で袈裟懸けに切られ事切れたサリーと、燃え上がる我が家だ」


 食料品店と農家も同じようなものだったようだ。

 唯一、ミハイルの雑貨屋は囮の金子と一部の商品を残して穴倉に落としてある。

 盗賊団はその金子に満足して去っていったようだ。

 モロッタイヤ村の、集落が離れて点在する事が盗賊団を引き上げさせた。

 ハンスの鍛冶屋工房は発見すらされず、村の奥の集落も同様だった。


「アンソニーはたまたま崩れ落ちてきた天井の下敷きになって、焼かれずにすんだ。だがその傷は酷くて……

 それに生きる気力ってものがなくなってしまって」


 ハンスは言葉を続ける事が出来ないようだ。


「絶対仇はうつわ!

 早く殺してくれと懇願するほど酷いやり方でやってやる!!」


 アンナリーナの髪は逆立ち、魔力が雷球となってパチパチと爆ぜていた。




 盗賊団襲撃の全容を知ってアンナリーナの頭の中では、何度も何度も盗賊たちに対する “ 仕置き ”のシミュレーションを行なっていた。

 次はエイケナールにて盗賊団の情報を仕入れる事にする。

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