第138話 31『カレー見参』
アンナリーナは、今回のデラガルサ行きに馬車を使わなかった。
これは無駄なトラブルを避ける為である。
……デラガルサ。
今までと違ってデラガルサ行きの乗合馬車に乗っているのは、ほとんど100%冒険者だ。
その中にもし、アンナリーナが混じると彼女が薬師だと知られる可能性がある。
今回、アンナリーナはエイケナールでは一切、薬類を売っていない。
これはジャマーたちの商売の邪魔をしないように、気を遣っている為だ。
ただ直接冒険者に詰め寄られたら、断り切るのは難しいだろう、という事で徒歩を選んだ。
エイケナールを出てしばらくは街道を進んだが、誰も見ていないのを確認して森の中に入っていった。
デラガルサまで徒歩で2〜3日。
アンナリーナは森をモロッタイヤの方向に大きく迂回して進む事にした。
そうして始まった、いつもの森行きだったのだが。
「やった! めっちゃラッキー!」
今、アンナリーナの目の前には、トサカ鳥の大営巣地が広がっている。
ザッと見回して数百羽、いや千に届くのではないだろうか。
あまりの光景に感動すら覚える。
アンナリーナは気を取直して言った。
「【魔法範囲拡大】【血抜き】」
トサカ鳥は、一羽も飛び立つことなくその身を巣に横たえている。
アンナリーナは、セトやアマル、それにテント経由でイジを呼び出し、風魔法も使って集め始めた。
ちなみに今日はここで夜営決定だ。
「みんな、ありがとう。
今回は卵は採らなくていいから。
ごめんけど夕食の準備で抜けるから、鳥さんはここに集めておいて」
テントの中に入るとローブを脱ぎ、装備を外してサロンエプロンを付ける。
そして【異世界買物】を始めた。
「炊飯器(一升炊き)、コシヒカリ米10Kg、カレールゥ3種類各甘口辛口計6箱」
即座にいつもの段ボール箱が現れて、アンナリーナは中のものを取り出す。
そう、今回初めてカレーを作ってみるのだ。
まずは米を洗う。
さすがに前世でも一升などという量を一度にといだ事はない。
無難に五合ずつといでしばらく水を切るために置いておく。
そして猛然とした勢いで野菜の皮を剥き、カットし始めた。
量は多いがカレーである。
前世では数え切れないほど作ってきた料理だ。
業務用寸胴鍋に油を敷きトサカ鳥を一口大に切ったものを炒める。
表面の色が変わったら玉ねぎと人参を投入してしんなりするまで炒め続けた。
アンナリーナはしっかりと煮込む派なのでジャガイモは時間差で投入する。
水は約7ℓ、煮込みながらていねいにアクをすくっていく。
ここで一度【時短】で火を通し、ジャガイモとリンゴの投入だ。
再び【時短】様子を見ながらまた【時短】
最後に隠し味?でトマトケチャップを入れかき混ぜながら煮込んでいく。
途中でスイッチを入れた炊飯器からは久しぶりのご飯を炊く湯気が上がっていて、思わず涙が溢れてきた。
テントの外には文字通り “ 山 ”が出来上がっていた。
それに手を触れて片っ端からインベントリに収納していく。
ここで新たに発見したのは、触れあっている個体は一緒に収納されるということ。
さすがに全部が一回で、ということはなかったが30数回で済んだ。
そして昼食兼少し早い目の夕食を摂る。
これこそ、この世界にない食べ物【カレー】である。
イジに配慮して、リンゴなどで少し辛味を緩和しているが、どうだろうか。
もちろんセトやアマルの分も用意してある。
アンナリーナは今日、この世界にカレーというものをもたらした初めての人間になった。
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