第136話 29『エイケナールへの再来』
アンナリーナは久しぶりにエイケナールの門の前にいた。
今、あたりは真っ暗で、門は固く閉ざされている。
「ありゃりゃ……やっぱり間に合わなかったよ」
拠点である魔獣の森の滝壺から、エイケナールの村の近くのポイントまで転移せずに、採取をしながらフラフラ飛んで来たのが良くなかった。
「しょうがないよね」
門から少し離れたところに携帯用テント(初期バージョン)を設置し【隠形】と【結界】を張って朝を待つことにする。
テントの中に落ち着いたアンナリーナは溜め息を吐き、こめかみを揉んだ。
思えば、自分自身の思いつきとはいえ、忙しなかった。
テオドールを見送った後、宿の宿泊期日を思い出して、しばし考えた。
そして【疾風の凶刃】クランに接触するとかかりっきりになりそうで、それなら先に用を済ませておくことにした。
まず女将に宿泊延長はせず、少し遠出する事を伝える。
そして鍋をいくつか出して料理の作り置きを頼んだ。
翌日やってきたテオドールに遠出を伝えると、露骨に嫌な顔をされたがポーションの素材を採取に行くと言うと、渋々認めてくれた。
だが、今度は同行すると無茶を言う。
アンナリーナ、はっきり言って足手まといはごめんである。
なんとか説得して、そのあとイジに素振りを教えてもらって、再会を約束して別れた。
そうして拠点のツリーハウスにやって来たのだ。
ここからは短距離の転移と飛行を使って、エイケナールにやって来た。
久しぶりの再会、楽しみである。
早朝、グレイストが決められた時間に門を開く。
すると、いつものように馬車が並び始めていた。
……このエイケナールも変わった。
デラガルサの鉱山でダンジョンが発見されてから、この村は見るからに訪問者や物流が増えた。
今はデラガルサへの中継地として賑わっている。
「皆さん、おはようございます。
お待たせしました。
これから入村の受付を始めます。
ひとりひとりの時間を短縮するため、身分証明書と、入村料銅貨5枚の用意をお願いします」
あまりの忙しさに、登録料として以前はなかった入村料を取るようになった。
わずか銅貨5枚だが、連日訪れる冒険者の数は半端ではない。
実はデラガルサへは、王都からの直行便がないため、必ずこの村に寄って行くのだ。
エイケナールは、デラガルサ鉱山の鉱石産出が減産する前に戻った、いやそれ以上に栄えている。
直接の任務は増員された兵士たちに任せ、ここの責任者であるグレイストは一歩下がって睨みを利かせていた。
そこで起きた異変……いや、奇跡。
門から少し離れた、壁面に近い場所に突然現れたテントに目を丸くしていると、その中から思い焦がれた少女が出て来た。
「リーナ!!」
思わず叫んだグレイストに向かい軽く手を挙げたアンナリーナは一瞬でテントをしまい、列の最後尾に並ぶ。
眉間に皺を寄せたグレイストはスタスタとアンナリーナに近づき、その手を取って門まで引っ張っていった。
「リーナ、今までどうしていたんだ?
お前たちが乗った馬車は【誘拐屋】にやられたんだろう?
心配してたんだぞ?!」
そう言えばそうだった。
自身に被害がなくて【誘拐】の意識がなかったのですっかり忘れていた。
「ん〜 身代金払ったらすぐ解放してくれたよ?
それからあっちこっちいってた。
しかしここも人が増えたね〜」
以前も連れて行かれた取調室で腰を下ろし、勝手に茶の準備をする。
しかし手を止め、グレイストを見上げる。
「朝食は食べた?
まだならなんか出したげるよ?」
「いや、俺は菓子の方が……」
この後グレイストは、存分に菓子を味わった。
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