第35話 リッカ、戦略を練り仕掛ける
「……目の色が変わったなリッカ。お前のそんな目を見れたのは旅の間でも数える程しかなかったな。いずれも我々が命の危険に晒された時や、何か覚悟を決めた時だった。最後にその目を見たのはお前が最後に魔王と対峙した時だったな」
聖剣を構え直してモルストが言う。自分では分からないが、覚悟を決めたのは確かである。モルストを見つめながら戦略を考える。
(このまま魔法を外から放っていても、モルストに聖剣で薙ぎ払われるか相殺されるだけだ。そうすりゃいずれこちらがジリ貧になって終わりだ。……現状を変えるには、多少のリスクを負ってでもこちらから……攻めるっ!)
そう思い魔法を構築し、詠唱を唱える。
「『駆けよ我が身!駿馬の蹄鉄』!」
『瞬間加速』の魔法を唱え、真っ直ぐモルストの方へと駆け出す。駆けながらモルストの方を見ると、お見通しと言わんばかりにこちらに衝撃波を放とうと構えている。だが、それはこちらも計算済みである。
「……っ!」
モルストの少し手前で加速を解除し、その場で即座に次の魔法を構築する。モルストが技を放つその直前で構築が無事間に合ったため、手をかざし魔法を放つ体勢に入る。同時にモルストが叫ぶ。
「『聖剣よ!我が声に応えよ』!」
……狙い通りだ。モルストの声が響くと同時に自分も叫ぶ。
「……『紡げ光よ!閃光の障壁』!」
モルストの衝撃波を発動と同時に防御結界で受け止める。その威力に思わず吹き飛んでしまいそうになるのを腰に力を入れて必死に踏ん張る。……ここだ。間髪入れずに叫ぶ。
「『輝け光よ!光刃の砲撃』っ!」
結界を繰り出した反対の手で魔法を放つ。
「なっ……!」
一瞬驚愕の表情を浮かべるモルスト。が、次の瞬間にきっ、とこちらを見据えて聖剣を振り下ろす。
「うおおおおっっ!!!!」
次の瞬間、自分の魔法とモルストの聖剣が衝突し、爆音が響くと同時に衝撃が走りその場から一気に吹き飛ばされる。
「ぐっ……!かはっ……!」
体勢を立て直す余裕も無く、背中から勢い良く地面に叩きつけられる。背中の痛みに思わず咄嗟に息が出来ず、慌ててその場で呼吸を整える。すぐに首にかけている札の色を見る。
「……『依代札』の色は……よし、変わってないな」
札の色を確認してよろよろと立ち上がると、視界は先程の衝撃で土煙が舞い、周りが見渡せない。土煙が収まるのを待ちつつ周囲を警戒する。
(……今の一撃で仕留められたか?いや、あいつはそう甘くはない。それに最後の瞬間、あいつはこっちの魔法にしっかり反応していた。こっちも完全な状態で魔法を放てたとは言えない。あいつもまだ札の色は変わっていないと思っていた方が良いな)
そう思っていると、先程より多少弱まった土煙の中からルジアたちがこちらに駆け寄ってきた。どうやら先程の爆発でルジアたちの方へ吹き飛ばされていたようだ。
「大丈夫ですか、先輩!」
「ちょっとあんた!死んだかと思ったじゃないの!」
マキラたちがこちらに駆け寄り、口々に声をかけてくる。
「……大丈夫だよ。場を動かすためとはいえ、ちょっと無茶な思い付きだったけどな。流石にお前たちの方まで爆発は届いていないよな?」
言いながら全員の『依代札』を確認しながら言う。自分の色が変わっていない時点で大丈夫だとは思ったが、万一の事があってはいけないと確認しているとセリエが声をかけてきた。
「……先生、お聞きしたい事があります。こんな時ですが大丈夫でしょうか?……先程の戦闘の中で、どうしても気になった事があったので」
その言葉に皆が一斉にセリエを振り返る。……その質問の内容に察しはついている。セリエかオルカ辺りはもしかしたら気付くかもしれないと思ったが予想通りである。つくづく優秀な生徒たちだと思った。
「ちょっと!今はそれどころじゃ……」
そう言いかけるルジアを優しく手で制し、セリエの次の言葉を促す。
「構わないよ。この状況じゃあいつがどんな状態かは分からないが、少なくともここに不意打ちで仕掛けてくるような奴じゃない事は俺が保障する。どのみち、俺もモルストもこの土煙が収まるまでは動けないからな。言ってみろ、セリエ」
自分の言葉にセリエが頷き口を開く。
「……はい。見間違いでなければ先生はあの時、モルストさんの衝撃波を防ぐためにまず防御結界を発動させていました。ですが、それを展開させたとほぼ同時にあの時私たちに見せた攻撃魔法をモルストさんに放ちました。……つまり、先生は異なる魔法を同時に放った様に見えたのですが」
セリエの言葉に皆の中でどよめきが走り、口々に騒ぎ出す。
「は!?れ、連続じゃなくて同時に魔法を使ったって事!?あ、ありえないわよ!」
「……で、ですが確かに言われてみればそうです!結界を展開すると同時に先輩はモルストさんに魔法を放っていました!しかも防御魔法と攻撃魔法を!」
「ど、どゆことリカっち!?……ていうか、そんな事本当に可能なの!?」
皆が一斉に自分に詰め寄るのを制しながら口を開く。
「落ち着け皆。今きちんと説明してやるから。それはだな……」
そう自分が言いかけた時、皆の後ろから声が聞こえた。
「……それは、私から説明してやろう」
その声に皆がその声の主に振り返る。
土煙が収まったその先には、聖剣を構えたモルストが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます