第14話 リッカ、順調に講師生活を送る
ルジアの一件もどうにか落着し、およそ半月程が経過した。その間何故かルジアとマキラで自分の真ん前の最前列の席を奪い合うやり取りが勃発したり、自分の私服についてナギサ主導によるファッションチェックが入ったりしたものの、警戒していた魔族の襲来を含め特に大きなトラブルが起こる事もなく平穏な日々が過ぎていった。
「……なるほど。あたしはここで魔法の構築手順を間違えていたって訳ね。どうりで自分で思っていたよりも火力が出ないと思ったわ」
説明のために紙に書いた魔法陣と魔力を構築するまでの流れを見てモルドがつぶやく。
「いや、間違いって程のレベルじゃないけどな。問題なく魔法は発動しているんだ。強いて言うなら本来なら百パーセントのところが八十パーセントの威力になっていたって感じだな」
自分の言葉を聞きながら今教わったところを逐一丁寧にメモを取るルジア。こいつにここまで勤勉な一面があったのは意外であった。自画自賛ではないがこの変わりようには驚いた。
(あれ?もしかしたら俺ってこの講師って仕事、天職なんじゃね?)
なんて事を思わず勘違いしそうになるほどであった。
「……もうよろしいですね、ルジアさん?では次は私の番です先輩。私の得意属性の伸ばし方のコツをお聞きしたいのでよろしくお願いします」
そう言ってルジアの反対側に座り自分に食い気味に言うマキラ。……何故かその瞬間、空気が張り詰めていくのが分かる。
「お、おう了解だマキラ。えぇと、たしかお前は『水』が得意だったよな……」
そう言ってマキラの方へ振り向こうとするとルジアが声を上げる。
「ち、ちょっと!まだ私の質問全部終わってないわよマキラ!割り込まないでよ!」
そう言われるものの、以外にもマキラがルジアに言い返す。沈黙を守る自分の横でマキラが反論している。
「せ、先輩の長時間の独占はレギュレーション違反ですよルジアさん!」
やいのやいの言い合う二人からそっと離れて教室の窓辺へ避難する。自分の事を忘れて口論する二人を遠目に見ていると、ナギサが声をかけてくる。
「やー。モテモテだねぇリカっち。さしずめ、幼馴染キャラと典型的ツンデレキャラに挟まれた主人公って感じかな?」
そう言って笑うナギサ。綺麗なツートンカラーの髪がふわりと揺れる。
「……お前、絶対面白がってるだろ。煽るのもほどほどにしてくれよ。ただでさえあいつら最近あんな感じなんだからさ」
そう自分が言ってもナギサはそれすら面白がっているようで、悪びれる様子がない。心底楽しそうに笑顔でこちらに向かって言う。
「だってさー。こんな面白いエンタメ要素が目の前にあるのに黙って見てろって言うのは殺生じゃない?ルジっちのこんな一面初めて見たし、マキラっちはもうクラスの皆しかいない時は先生呼びを止めてリカっちのこと先輩呼びが当たり前になってるしさ。……あ、でもさリカっち、どっちを選んでも幸せにしてあげてね?二人とも大事なあたしの友達だからさ」
「話を!飛躍!させるな!」
思わずナギサに向かって叫ぶ。だが当の本人はそれすら楽しんでいるようで、全く止まる気配がない。
「あはは!式には呼んでよねリカっち!あ、もうすぐ授業終わるよね?じゃ、あたし行く所あるんで!じゃあまた明日ねリカっち!」
ナギサがそう言うとほぼ同時に、終業のチャイムが教室に鳴り響いた。本当にこいつは絡みづらい。対処法を考えなければいけないと思いつつ、未だ言い合いを続けているルジアとマキラの仲裁に入った。
(……授業に熱心なのはいい事なんだが、なーんかこいつら違う気がするんだよなぁ)
そんな事を思いながらも、日常は平穏に過ぎていた。
「リッカ先生、申し訳ないのですが校舎脇の草刈りをお願い出来ますか?まただいぶ草が伸びてしまっていますので……」
ある日、教務室で書類の整理をしているとメディ先生が声をかけてきた。
「あぁ、了解ですよ。じゃあ早速今日は天気も良いので、これが終わったらすぐに取り掛かりますね」
あくまで臨時講師兼用務員として在籍している為、こういった雑務も時折こなす必要があった。とはいえ基本的に特進クラスの面々の授業は大半が自主学習なので、備品のチェックに始まり設備の補修等の雑務は特に苦にならなかった。書類を無事にまとめ終えて椅子から立ち上がる。
「さてと。時間的にはまだ昼休みだが、今のうちにちゃちゃっと片付けますかね」
そう一人つぶやき、校舎脇に向かう。なるほど、確かに景観を損なうくらい草が伸び放題だ。前任者が使用していたであろう草刈り用具を放り出し、周りを見渡して人がいない事を確認する。
「……よし、それじゃあさっさと人気のないうちに終わらせるか」
魔力を構築し、詠唱を唱える段階で念のためにもう一度周りを見て誰もいない事を確認して魔法を発動する。
「……『裂けよ風、疾風の円輪』」
魔力を最小限に抑えて空間に真空を発生させ、周囲に風の刃を作り出す。瞬時に周りに生えた草を発動させた風の刃で草を根こそぎ刈り取った。
「ほい、完了っと。あとはこいつを束ねて終わりだな」
刈り取った草を袋にちゃちゃっと詰めていく。あまり早く終わらせて戻っても怪しまれるので、一通り草を袋に詰め終えた後で校舎の裏で懐からタバコと携帯灰皿を取り出す。
「さてと。早く仕事を終えた役得としてひとまず一服といきますかね」
校舎の壁に背中を預ける形で座り、タバコに火をつけ一服する。煙を吐き出しながらぼんやり景色を眺めていると、見慣れた顔が走っていく姿が見えた。
(ん?あれは……ナギサか?)
どこか思い詰めた様な表情をして、校舎裏へと歩いていくナギサの姿があった。
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