隣の美人姉妹がどうやら吸血鬼だったようです。俺の事をそんな目で見るのはやめていただけませんか?
柊
第1話 彼女が家に来たら期待するよね
ほんの数秒前まで、俺は人生で最高の気分
美人の彼女が出来て、その彼女に「今日、家に行っても良い?」なんて尋ねられたら、誰だって有頂天になるよね?
と言うより、ならない男はいないよね?
正に天にも昇ると言う気分だったのに……俺は今、人生最大のピンチにいる。
家に招いた彼女こと、
黒髪美人という言葉が似合う清楚系女子でお淑やか。最高に可愛い彼女が出来たと自慢しまくって、ついに今日という日が来た――と思っていたわけですよ。
なのに何故、俺はソファーに押し倒されているのでしょうか。
あれ、俺が押し倒す側だったはず? などという間抜けな思考を浮かべながら見上げた先には、押し倒した俺の腹を押さえつけるようにして跨る彼女。
状況は最高に美味しい。
ましてや好きな子に美味しいに決まってる――――本来であれば。
人生に一度や二度、押し倒されるのも悪くはない。男だもの積極的な女の子も好きですよ。問題は華奢で如何にもか弱く守ってあげたくなるような女性と思っていた彼女が、どれだけ力を込めようともびくともしない、という事だ。
あまつさえ、彼女によって押さえつけられた俺の片腕は指を動かす事が精一杯。空いたもう一方で彼女の腰の辺りを持ち上げてみようと試みるも、意味のなさを思い知らされるだけ。
――清楚どこいった。詐欺じゃねーか
と、苦情を言いたいところでもある。が、それ以上の詐欺が俺の視界にはしっかりと映っていた。
唇の隙間から見える、鋭い牙。何より獲物を狙うが如く、じいっと俺を見下ろす仄かに光る青い瞳。
――さっきまでなかったよね? 目も普通に茶色だったよね?
色々ありすぎて混乱している
「ねえ、
透き通る――と思っていた声色には甘い色気が溶け込んで、俺を呼ぶ。正直びびって返事も返せない俺は目線で解放してくれと訴えるだけなんだが。
「ちょっと痛いだけだから、ね?」
軽く言い放った彼女の細い指が、俺の喉元を撫でる。くすぐっているようで、どこか値踏みしているようでもある。
――いや、痛いって何!? そう言うプレイじゃ無いよね!??
余計な言葉で更なる混乱が生まれた俺をよそに、滑らかな動きを見せる右手の人差し指は、ゆっくりと喉仏を通り過ぎて俺の左半身……鎖骨あたりまで辿り着く。そのまま這わせた指が首筋――僧帽筋の辺りへ。
その、もう少し上。丁度動脈がある辺り。
「私の事、全部好きって言ってくれたよね? どんな私でも良いって言ったよね?」
うっとりと、頬を赤らめながら語る姿は少々興奮気味でもある。「はぁ」と吐く息は熱っぽく、
こんな状況じゃなかったら、十分唆られますね。
まあ、押し倒される前に口走った言葉を後悔している今では、立つものも立たない。
「いや、あれはちょっと口が……」
口が滑ったんだ。と言いかけて俺の言葉はあっさりと遮られる。
「だから、良いよね?」
話を聞いてくれ。
「いや、だから……百合さん!?」
それまで、抵抗も忘れて百合さんを見上げるだけだった俺の身体。が、不意に腕を引っ張られ上体が勢いよく起き上がった。
――あの……おれ、そんなに軽くはない……と思うんですけど?
もうどこから突っ込めば良いのかもわからない。全てを綺麗さっぱり忘れ去って、今この状況から逃げ出したい。
そうだ。いくら馬鹿力とは言え女の子なんだから、思い切り力を入れたらなんとかなるって(多分)。
そんで、その隙に逃げ出して……とっとと家に帰ろう。早く帰って寝よう。寝て忘れてしまおう。そうしよう。
……あ、ここが俺の家だった。
………………詰んだ。
どうにもならない現実に、俺の力が抜けた。
その瞬間、百合さんが不敵な笑みを浮かべたかと思うと、仄暗い口の隙間から鋭い牙がこちらを覗いていた。
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