猫様たちの秘密〜猫の国の王子様の想い〜

猫兎彩愛

猫様たちの秘密〜猫の国の王子様の想い〜

 満月の夜――――


 愛するご主人様が深い眠りについた満月の深夜、土産を咥え、物音を立てない様に家の外に出る。


「行ってきます」


 小声で呟き、暫く走ると人影が見えてきた。執事のロイだ。


「王子、お迎えに上がりました」


 ロイは頭を下げ、腕輪を差し出す。


 腕輪を受け取り手に嵌める。すると、猫耳と尻尾はそのままで、人の姿になるのだ。驚くかもしれないが、これが本来の姿だ。


「この姿も、一ヶ月振りだな」


 カーブミラーで姿を確認し、身なりを整える。


「そうでございますね。皆、王子の帰還を心待ちにしておりますよ」


 ぼくたちネコ属は、自分達の国で、この姿ひとがたで過ごしている。他の飼い猫や、野良猫といわれている仲間もそう。ネコの国もあるのだが、長い間続く干ばつで食糧難だ。



 *



 今から約三年前、国民の為に食糧を何とかしようと人間国にんげんこくに行った。しかし空腹もあって、力尽き、道に倒れ込んでしまった。


 国のピンチは、僕が何とかしないといけないのに。だ、駄目だ。もう、力が入らな……


 薄れゆく意識の中、声が聴こえた気がした。


『大丈夫……?』


「に、にゃあ……」


 何とか返事をするが、そのまま意識を失ってしまった。


『弱っているみたいね……何とかしないと』


 この時声をかけ、家まで連れて行ってくれたのが今の御主人様だ。


 あのままだと、本当にどうなっていたことか。車に轢かれてしまったりしたかもしれない。拾われなければ、慣れない土地で餓死し、ネコの国にも帰れなかったかもしれない。



 *



 人間国での暮らしはとても良く住みやすい。だから上位猫と呼ばれ、変身できる者達は、人間国で人と一緒に暮らしている。そのまま住みついているも少なくないが、僕は国の為に帰る。


 月に一度、満月の夜にネコの国に通じるゲートが開く。帰る為にはそこゲートに行くしかないのだ。


 ロイと一緒に、静かな深夜の住宅街を少し歩く。空を見上げると、満月がとても綺麗だった。


 暫く歩くと、馬車が止まっていた。


「リチャード王子、お乗り下さい。今宵、王女様は何かご準備があるご様子で、先に行かれている様ですよ」


 ロイが軽く頭を下げ、馬車の扉を開ける。しばらく走ると真っ暗な森の中に入った。深い深い森の奥に、ネコの国に続くゲートはある。


「リチャード王子、到着致しました」


 馬車を降りると、目の前には虹色の泉が広がる。この泉もまた、月に一度だけ虹色に輝く。満月の光に照らされ、今日は一段と良く泉が光っている。空を見上げると、満点の星空だった。


 こんなに天気が良いのもいつぶりだろう? 何だか今宵は良いことが起こりそうな気がする。


 いつもの通り、腕輪を満月に翳した。すると、満月の光に照らされて扉が現れる。


 森の奥深くに現れる扉、人間達は知らない。否、知られてはならない。知られてしまうと、きっと騒ぎになるだろう。僕は王子として、ネコ属を守る義務がある。


 扉に入り、ネコの国に到着した。僕は土産のお気に入りの猫缶を皆に渡した。人間界に行けない猫や行けなくなった者もおり、かなり喜んでくれている。それに一ヶ月振りということもあり、話が弾む。それから更に朗報が。


 王女が妊娠したらしい。これにより、僕は、僕と王女は王位を受け継ぎ、王と女王になる。


 国はお祝いとお祭りでかなり賑わった。時間を忘れる程に――


 気付いた時には遅かった。ゲートも閉じてしまっている。もう、一ヶ月は人間界に戻れない。もかなり心配することだろう。でも、これはどうしようもない。


 一ヶ月後、恐る恐る人間国の家に帰ると、家の前に貼り紙が。よく見ると、電柱にも、公園にも、近くのコンビニまで貼り紙が。どうやら僕をずっと探してくれていたらしい。そう思うと嬉しくなり、居ても立っても居られず、家へ飛び込んだ。


 すると、主人は驚きながらも、僕を優しく抱き締めてくれた。良く見ると目に涙が溜まっている。


 あったかい、な……


 抱き締められながら、主人に愛されている事を実感していた。でも、二ヶ月後には子供も生まれるし、これからは国のため、子供の為に来れなくなる。


 そう思うと、寂しくて仕方がなかった。


 限られた主人との時間を大切にしよう――


 それからは毎日、主人が家に居る間ずっと側に居た。離れなかった。離れたくなかった。次の満月も帰らなかった。


 これが、だから……


 僕が居なくなっても、いつまでも元気で居てね? 別れた後もこっそり会いに行くよ。満月の深夜、その扉を開いて―――





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