第2話  ツーリスト・アドベンチャー2

 二度目のヴァーチャル世界観光。

 今度は現地の人と仲良くなろう、そんな目的を抱いて亜空間ラムジェット旅客機から降り立った。

 当然ながら原子破壊熱線砲他、もろもろは没収されましたが。


 鉄橋の彼と出会ってかれこれ二百八十年が経過している。さすがにもう出会えないだろうが嘆いていても始まらない。

 文化・文明レベルを混乱・左右させない、という絶対のルールの下、次元パスポートとミント味の飴を持っててくてくと街頭を歩く。以前来たときよりも煌びやかだが、どこかプラスチック臭もするのであまり快適とはいえない。


 そこでまず出会ったのは、初老の男性だった。

 耳が遠いらしく受け答えに苦労したが、彼は商店街の変わりようをあまり快く思っていない、と漏らしていた。しかしこちらを詮索することはせず、ただひたすらに自分の過去を語る初老は、恐らく商店街の遺跡のような方なのだろう。


 続いて遭遇したのは、まだ若い、野球のユニフォーム姿の若者だった。この時代でもベースボールは健在らしく、いかにもアナログなバットとミットを持っていた。

 野球は楽しいかと聞くと、意外にも「別に」との返答。楽しくもないのにユニフォームとフル装備なことに違和感を覚えたので尋ねると、やはり「別に」と返ってきた。

 どうやらこの若者の口癖らしいのでそれ以上は尋ねず、適当に挨拶をして分かれた。


 その後すぐに、自分と同い年くらいの少女と鉢合わせになった。

 服装こそこの時代らしいボディにフィットした合成繊維だが、笑顔が素敵な女性だったので声をかけてみた。

「あなたは今、幸せかしら?」

「ええ、とっても、毎日が充実しているわよ?」

「具体的には?」

「私、今年の冬が寿命なの。だからそれまで目一杯遊ぶことにしてるの。ね? 幸せだと思わない?」

 これには返答に困って思わず沈黙してしまった。

 こちらの世界では人の寿命はかなり正確に解るらしいが、あたしの世界にも似た技術はある。但し倫理的事情で伏せられている。

 寿命が解ることが幸せかどうかはあたしには解らないが、当の本人が喜んでいるのだから幸せなのだろう。ここは他人がとやかく言う部分ではない、そう思ったのでそれ以上は何ら語らず、良かったねと付け加えて別れた。


 そうこうしているうちに亜空間ラムジェット旅客機の滞在期間となった。

 手荷物を受け取り、来たときと同じくラムジェット旅客機に乗り込み、商店街で出会った数人を思い出しつつ、あたしは岐路に着いた。

 知ることが幸福につながる訳ではない、そんなことは知っているつもりだが、知ってしまった後でも平然と暮らしていけるだけのタフネスさは少なくともあたしにはなく、恐らく生涯身につかないだろうとも思う。


 ――おわり

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