ガチャ空の倉庫

ガチャ空

セブンプラネット

  皮肉交じりのお伽噺


「ねぇ、ねぇ! おっちゃん! また、あの話を聞かせてよ」


 過疎化が進んだ村外れの小屋の前。


 薪割りをしていると、村の子供ガキどもが近付いてきた。


「あん? 誰がおっさんだよ?」


 俺の年齢は26歳。おっさん呼ばわりされるのは心外だ。


「おっちゃんいーじゃん! ねぇ! ねぇ! 話してよ!」

「バカだなぁ……こういうおっさんは単純だからお兄さんって言えば、イチコロだよ」

「あ!? そうか! ねぇ! ねぇ! お兄さん! 話してよ!」


 目の前の子供たちのやり取りは全て聞こえている。


 俺はバカにされているのだろうか?


「ったく、何であんな話を聞きたいんだよ」

「えっとね……昨日、町から商人のおっさんが来たの。そのおっさんの話がおっちゃんの話と似ていたの! でもね、僕はおっちゃんの話の方が面白くて好きだよ」


 おっさんの登場率高いな……。


 そして、ガキ共は俺をお兄さんと呼ぶのを早々にやめたようだ。


「ほら! 仕事持ってきてやったんだから、話せよ!」


 そういって、一人の子供がボロボロになった包丁と鍋を差し出す。


 この村での俺の仕事は鍛冶師だ。鍛冶師と言っても、舞い込む仕事は包丁や鍋などの生活用品を研ぎ直す程度だった。


「チッ……しょうがねーな」


 客商売とは実に因果なものだ。


 俺は砥石を取り出し、錆付いた包丁を研ぎながら子供たちのリクエストに応えることにした。


「えっと……昔々……と言っても10年ほど前だな。この世界には冒険者と言うチンピラもどきが存在した。奴らが好きなのは酒と女と……金だ」


「冒頭から全然違う! 商人のおっさんが言うには冒険者は自由を愛してたらしいよ!」


 一人の子供が俺の話を遮って、商人から聞いた話を口にする。


「自由を愛すると言えば聞こえはいいが、要は協調性に欠けていた集団だな」


 俺は当時の記憶を思い返して……正確な答えを告げる。


「んで、そいつらは余りに協調性がないから冒険者ギルドって組織が出来た」

「あぁ……その辺はいいや! 『セブンプラネット』の話を聞かせてよ」


 人に話せと頼んどいて、その辺はいいとか……何とも失礼な子供だ。


「『セブンプラネット』? えっと、なんだ……冒険者はランクとか言う階級が存在していた。んで、一番の上の階級――Sランクの冒険者が集まってできた集団の名前が『セブンプラネット』だ」


「キタキタキタ! 一番星は『統率者コマンダー』でしょ?」


 子供は目を輝かせて、興奮する。


「『統率者コマンダー』? 違う、奴は『仕切りや屋』だ。奴はとりあえず、何でも仕切りたがる。自由を愛する自由都市にいながら、秩序を押しつける迷惑な奴だ」


「えぇ……圧倒的なカリスマ性は?」

「カリスマ性……? 違う、アレは恐怖による支配だな」

「おっちゃん、一番星を知ってるの?」

「知らん!」


 俺は期待に満ちた子供の眼差しを一蹴する。


「じゃあ次は……二番星! 存在そのものが伝説の『幻影ミラージュ』!」

「アレの存在は伝説だな……。奴を一言で表すなら『変態』だ」

「え?」

「奴は姿を隠し……幼女を見守る。決して触れることなく……ただ見守る」

「え? 全てが謎に包まれた存在って……」

「あいつの生態……いや、性癖は常人に理解出来ないと言う点では謎だな」

「おっちゃんが話しているのは『セブンプラネット』のメンバーだよね?」

「そうだ」


 不安げに尋ねる子供の質問に俺は自信を持って肯定する。


「えっと……次は三番星! 全ての人の憧れ――『剣聖ソードマスター』!」

「三番星か。奴は一言で表すなら『戦闘狂』だな。しかも重度の。手遅れなレベルの」

「え? 『剣聖』と対峙するだけ、末代までの誉れって……」

「アレと対峙するだけで? アレと対峙するのは簡単だぞ? 常に戦いを求めているからな」


 アレと対峙して生き残るって条件が付いたら、難易度は跳ね上がるが……。


「じゃあ次は四番星! 敵対したくない存在No1――『破壊者デストロイヤー』!」

「アレは……『脳筋』だ」

「……脳筋?」

「そう。脳みそまで筋肉で出来ている。そういう意味では確かに敵対したくないかもな」

「何か……想像と違う」


 どんな想像をしてたんだ?


「次は五番星! 稀代の魔術師――『暴風テンペスト』!」

「……五番星か。アレこそが『破壊者デストロイヤー』だな」

「え? そうなの?」

「迷惑極まりない天災のような存在だな。稀代の魔術師なんて高尚な存在じゃないのだけは確かだ」

「おっちゃん、やっぱり知り合い――」

「知らん!」


 何かを悟った子供の言葉を俺は瞬時に遮った。


「えっと、次は六番星! この人は何か地味だね――『創造者クリエイター』」

「六番星か……アレは『狂人』だ」

「狂人?」

「そう。狂った人と書いて、狂人だ。奴はとりあえず狂っていた……思考、行動……全てが常軌を逸していた……」


 俺は当時を思い出し、思わず震えてしまう。


「じゃあ、最後に七番星! 最後のSランク冒険者――『奇術師トリックスター』!」

「七番星か……彼は――」

「楽しそうなお話をしていますね? 私たちも参加してもよろしいですか?」


 最後の一人を話そうとしたとき――一人の女性が姿を現したのであった。

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