移りけらしな紅葉の色は

かたぎりしゅーたろー

第1話「序章」

 

 どこか遠くの方から聞こえてくる聞き覚えのある声の響きに、ふと意識を取り戻した。けれど、自分が今どんな状況にいるのか全く理解できなかった。辺りは一面の暗闇で、まるで水中にいるかのような浮遊感を覚える。どちらが上か下かもわからない。

 (…なんだ、どこだ、ここは…) 

 少し気を抜けばまた気を失ってしまいそうなほど、まだ意識はぼんやりとしていた。

 『…っ!』

 未だにはっきりとしない思考の中で困惑していると、また聞こえてくる人の声が響く。確かにどこかで聞いたことがある気がする声、だが、それが誰のものであったのか、もう思い出せない。

 『…で…』

 『…ないで…』

 声がだんだんはっきりと聞こえてくるようになった。それが近づいてきているのか、それとも自分の目が覚めてきたのか。その声の主を探そうとしてみるも、どうすることもできずに依然として暗闇の中にいる。

 『…っ!!』

 その声は水の中から聞いているかのように揺らいでいる。どこから聞こえてきているのか確認しようとするも、うまくいかない。ますます己の現状に疑念が湧いてくる。

 (…誰、だ…誰の声だ…)

 何もわからないまま視界が狭窄し、再び気が遠退いていく。薄れゆく意識の中あの声の響きが耳に残っているのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る