親は何度も子どもに殺される

渡邉 峰始

第1話

 マリコは空を見ていました。無限に広がる真っ青な空、音もなくゆっくり移動する雲。遥か遠くに舞う鳥をマリコはいつも見ていました。何時の頃か、物心が付く前からマリコは見ていました。マリコは

「何時か生まれ変われるなら、鳥になりたい。」

と思う様に成りました。


 マリコの両親は、マリコが産まれる前から、平気で蠅を叩き殺し、ゴキブリを叩き殺し、蚊を殺せる人間でした。あまりにも当たり前の事なので、蠅、ゴキブリや蚊の命について考えたことはありません。それはマリコが産まれても変わりませんでした。飼い始めたペットの毛の中に隠れている蚤をマリコの父は当然の様に自らの爪で殺すのでした。


 そんな両親に育てられたマリコは人間に害を与える虫は悪いモノと覚え、忌み嫌い殺すのでした。


 ペットは両親がマリコに『命の尊さ』を教える為に飼い始めました。マリコは両親の愛情を受けすくすくと成長しました。


 マリコは年頃に恋愛をし、学生時代を謳歌しました。マリコは就職して働く様になりました。運命の彼と出逢い結婚しました。子どもにも恵まれました。


 マリコは子どもに愛情を注ぎ育てました。マリコの子どももマリコが忌み嫌い殺すモノを殺すようになりました。


 時は流れ、マリコは老いて天寿を全うしました。


 天国で神様にマリコは言われました。

「あなたが生まれ変わりたい『鳥』に生まれ変わる前に、あなたが忌み嫌うモノに108回生まれ変わります。」


 マリコは蠅に生まれ変わりました。飛べるようになった蠅は、マリコの子どもの所へ行きました。何も知らないマリコの子どもは、その蠅を叩き殺しました。マリコはゴキブリに生まれ変わりました。ゴキブリはマリコの子どもの目の前に現れました。何も知らないマリコの子どもは、そのゴキブリを叩き殺しました。そうして、マリコは忌み嫌うモノに生まれ変わる度に、我が子の目の前に現れ殺されるのでした。

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親は何度も子どもに殺される 渡邉 峰始 @T-Watanabe2021

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