第588話 レヴィアタンの自我

レヴィアタンは回復することもできず、

ただ闇雲に魔法を打ちまくっている。

その一発一発は流石の威力ではあるが、

ただの単発攻撃では遼香一人であっても倒すことはできない。

遼香はただレヴィアタンを見下ろして手すら動かさない。

全て守熊田の魔法防御に阻まれてしまう。


「くそっ!

なぜだ!

なぜこうなった!

お前たち人間なんぞは、

私たちの遊び道具でしかないではないか!」


レヴィアタンの声が虚しく響く。

レヴィアタンほどの魔人にとってみれば、

人間など取るに足らない存在であろう。

これだけの実力差があるならば、

虫ケラと同様に思うのも無理はない。

それはレヴィアタンや魔族が残虐であるからということもあるだろうが、

別にそれは魔族がそうなりたいからなっているわけではないかもしれないのだ。

何かの役割や意味を持って、

魔族もそのように作られているのかもしれない。

しかしだからと言って人間たちも、

魔族に蹂躙されるのを指を咥えてみているわけにはいかない。

対抗する魔力を追い求め、

人間以外の種族とも共闘し、

その魔力を高めてきているのだ。

それは弱肉強食のこの世界において生き抜くために必要なことである。

魔族たちが自らの巨大な魔力に胡座を描き、

牙を磨かなかった報いが来ているのかもしれない。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」


レヴィアタンの自我はもう崩壊しかけている。

見下していた人間に見下されているこの状況に耐えられないのだ。

もし遼香が砕星を持っていなかったら、

もう少し戦況は変わっていたかもしれない。

無限に続くかもしれない巨大な魔法攻撃を受け続け、

それに対抗して攻撃を当て続けるというのは難しかったかもしれない。


遼香ならなんとかしてしまいそうではあるが。


ただそういう意味において、

レヴィアタンの運がなかったということも確かである。

うまくいかない時は全てが悪い方向へ進んでいく、

そういう巡り合わせになるのだ。


レヴィアタンが一人この地に残り、

遼香たちを殲滅することだけのために動き続けている。

もうすでに自我はほぼ残っていないのかもしれない。

回復しない体も魔力も尽きかけているのが、

外からでもわかる。

ただ、このまま放置してしまうとまた復活する恐れがあるので、

ここで仕留めておかなくてはいけない。


そうしているうちに、レヴィアタンは自分の魔力を自分の体の中に集め始めていた。


「あかんで、あいつ自爆するつもりや!」


守熊田は叫んだ。

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