第576話 邂逅と確認と

「まさか誰か……?」


「いやいや、早まるな緑箋。

犠牲者はおらん。

だが魔族が攻めてきた時に、

寮内から出てた生徒が何人かおってな、

彼らは捕まってしもうとる」


「そうなんですか‥‥。

もしかして咲耶さんも?」


「咲耶は大丈夫や。

今は寮内でみんなのことを落ち着かせて、

外部との連絡を取ってもらってる」


緑箋は心の底からホッとした。


「わかりました。細かい話はまず置いておいて、

まず防御壁を増やしましょう」


「ああ、そうしてくれると助かる」


緑箋と代田は正面以外の場所に頑強な防御壁を張り巡らした。

正面を開けているのはわざとである。

相手に人質が取られているため、

交渉する余地を残さなければならない。


「とりあえず、近々の危機はこれで脱したでしょう」


「連絡によると、すでに魔族の周りには軍が取り囲むように配置しているそうです」


代田と朱莉が常に連携をしてくれている。

緑箋たちは一旦寮内へ下がって成り行きを見守ることにした。

ちょうどそこに咲耶がやってきた。


「寮長、寮内のみんなはだいぶ落ち着いてき……。

って遼香ちゃんに緑箋君!」


咲耶は遼香と緑箋を見つけると、

走って遼香にぶつかるように抱きついた。


「咲耶ちゃん、無事で良かった」


「うちは大丈夫やで!

でも何人か連絡がとられへん人がおんねん……」


「ああ、話は聞いてる。

必ず救出するから安心してくれ」


咲耶は大きく頷いた。


「それに緑箋君も来てくれてありがとう。

めっちゃ心強いよ!」


「力になれるように頑張るよ。

みんなの救出を最優先にしていくね」


「うん、ありがとう!」


咲耶と緑箋は固い握手を交わした。


「それで敵の状況でわかってることはあるか?」


「いやわからんな。

敵は今見た通りとしか言えん。

空中にも地上にも敵部隊が展開しとるやろ?

正直どうやってここまで警戒網を掻い潜ったのかもわからへんな」


「まあそのあたりは後で検証する。

まずは今の状況の対処が先決だ」


「では今の状況を整理しましょう」


緑箋はすでに先ほど敵の全体像を探知している。

その様子を魔法で映像として見せている。

寮にある元々の防御結界の外に敵は展開している。

空中は取り囲むように配置されているが、

地上部隊は正門の前に陣取っている。

巨大なゴーレムやオーガなどもいる。


「かなりの敵がいるようですが、

各個撃破すれば問題ない相手ではないかと思います。

遼香さんこの数はどう見ますか?」


「確かに緑箋君のいう通り、

数は多いが、それほど苦労しないと思う。

ただ問題は目的と人質だな」


「もうすでに救出には向かっているみたいですよ」


遼香の影が喋った。


「夕乃か?

ちゃんと仕事してるようやな。

こいつは影や。

影やのに口やかましい影でな、

それでいて仕事はできるやっちゃ」


「あら、そんなに褒めてくれるなんて珍しいじゃないですか。

よろしくね咲耶ちゃん」


影は咲耶に挨拶をする。

咲耶も普通にこういう状況は慣れっこのようで、

普通に挨拶を返す。


そんな中、敵の軍勢から一人こちらへやってきた。

窓から見えるその姿を見た緑箋と咲耶が反応した。

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