第476話 幽玄斎対ザゴーロ

幽玄斎は一度距離をとったあと、

拳を高速で叩き出す。

雷を纏った拳がザゴーロへと叩き込まれている。


ザゴーロは舌打ちをしながら、

ラベンダースモークの濃度を上げて、

自身の周りを霧で覆っていく。


幽玄斎はその霧の中に拳を打ち込んで行くが、

もうすでにその姿はその中にはなかった。

幽玄斎は「心眼」の魔法を発動する。

煙の中で魔力がなかなか感知できず、

うまく隠れたザゴーロを見つけられない。


幽玄斎は静かに目を閉じる。

徐々に晴れてくる霧の中にザゴーロはおらず、

ミスティックフレアが幽玄斎の頭上から降り注いでくる。

ザゴーロは霧が晴れると同時に空中に飛んでいたのだった。


幽玄斎は振りそぐ光を一つ一つ確実に避けていく。

そしてその避ける速度がどんどん速くなり、

ザゴーロが放つ前に、

その場所から幽玄斎は消えていっている。

さらに幽玄斎は移動する速度早め、

一人二人と、幽玄斎の数が増えていくことになる。

ザゴーロはその一人一人にミスティックフレアを当てていくが、

その消えていく幽玄斎よりも、

場に現れる幽玄斎の数の方がどんどんと増えてきてしまう。

ザゴーロが見下ろす地上には、

すでに数百体の幽玄斎が消えては現れ、現れては消えてを繰り返している。


「なんなんだこれは!」


ザゴーロの悲壮な叫びが響き渡る。

攻撃しても攻撃しても消えない幽玄斎の数に、

流石にザゴーロの魔力を持ってしても疲労が見え始めてきていた。


幽玄斎はその隙を見逃さなかった。

地上にいる幽玄斎の全てが上空のザゴーロを指差す。

そして静かに、


雷霆万雷らいていばんらい


と唱える。


そのすべての指先からザゴーロのはるか上へと雷が飛び、

そしてザゴーロに向かって雷が降り注いでくる。


「アメジストガード」


ザゴーロは手を挙げてアメジストの防御壁を頭上に貼り、

なんとか雷を避けようとしたが、

その瞬間、幽玄斎たちは雷と共に舞い上がり、

無数の雷拳が横から飛んできた。


流石にその全てを防ぐことはできず、

ザゴーロは参ったと降参した。

ザゴーロが降参したと同時に、

アメジストの防御壁は粉々に壊れた。

地上にキラキラと紫色の宝石のかけらが舞い降りてきた。


「よーし、勝負あり!」


幽玄斎はだんだんとその姿が消えていき、

一人一人と減っていくと、

最後に一人の幽玄斎が残った。

その元に緑箋と代田が駆け寄ってくる。

幽玄斎はようやく笑顔になって二人を迎えて抱き寄せた。


「いやーやりましたね幽玄斎さん!」


「私の負けを取り返してくださってありがとうございます!

めちゃめちゃかっこよかったですよ!」


代田が珍しく興奮している。

自分が負けた悔しさもあったのだろうが、

幽玄斎の勝利がよっぽど嬉しかったのだろう。


「ありがとう!ありがとう!」


幽玄斎も少しホッとしたようだった。

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