第333話 緑箋の隠し球

「そうなの?

あるんだったら言ってよ緑箋君」


朱莉は目を輝かせている。


「いやまああるっちゃあるんですけど、

これはまだ実験中なんです。

今自分で試しているんですが、

これをダイダラボッチさんに使うとなると……」


「いえ、使ってください!

このまま何もできないでいるより

少しでも可能性があるならやって欲しいです」


ダイダラボッチも切羽詰まっているようだった。

緑箋もこの思いには答えたいと思っているのだが、

実際に他人を実験に使うのは気が引けてしまう。

そんなこと気にしなくていいと、咲耶もよく言っていたが、

自分のスキルについてもまだよくわかっていないのだから、

慎重になるのは仕方ない。

おそらく重篤な副作用などはないと、

今の所の実験結果から考えられるのだが、

などと堂々巡りの考えをいつまでもしていても仕方がない、

このままでは問題は解決しないのも事実だったので、

緑箋は覚悟を決めた。


「わかりました。

このままでは確かにしょうがないので、

一回やってみましょう。

ダイダラボッチさんには実験に付き合ってもらう形になってしまいますが、

本当によろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。

私でよければ喜んで」


ダイダラボッチは大きく頷いた。


「今回はこれを使います」


「それはお札?だよね」


朱莉は緑箋が取り出したお札を手にとる。


「普通のお札だと思うけど、

これをどうするの?」


「これは、陰陽師の友人と開発していた物なんですが、

陰陽師は呪符を使いますよね。

あれと同じように呪符にスキルが込められないかと考えているんです。

要するにスキルの湿布みたいな物です」


「なるほど、確かにそんなことができたら楽しそうだよね」


「ただこの呪符にスキルの効果を乗せるのがまだ安定していないのと、

結局この呪符の効果を出すためには、

僕が呪文を詠唱しないといけないんですよね」


「ということは?」


「本来は本当の薬のように呪符を配って、

いつでも使ってもらえないかというように思っていたんですが、

陰陽師の呪符をもらっても僕が使えないように、

僕の呪符も僕しか使えないんですよね」


「それは今のところうまくいってないってことなのね」


「そうなんです。そうなんですが、

一つだけいいことがありまして、

呪符にして貼っておくとその効果が伸びるということは確認されています」


「それってすごいじゃない!」


「まあそうなんですよね。

今のこの効果がうまくいけば、

ダイダラボッチさんにも使えるのではないかと考えられるんですが、

その効果時間がまだわからないんですよ。

ということはいきなり巨大化してしまう可能性もあるってことなんです。

魔法の効果はありますから、

いきなり巨大化するということはないとは思いますが、

お札が効いている間にどの程度大きくなるのかもわかりませんからね」


「確かにその危険性はあるのか」


「それにこれは薬みたいに使えませんので、

大きくなり始めたら別のお札を貼るということもできないんです。

僕がいればすぐ貼り直すことはできるんですけどね」


「わかりました!」


ダイダラボッチが大きな声を出した。


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