第313話 遼香との約束

「ということはちょっと待ってください。

今日みたいな訓練を毎日ずっとやってきたってことですよね?

もしかしたら遼香さんがここにきたのは様子を見にきたわけではなく?」


「もちろんそうだよ。

これから二人で訓練するんだよ」


「いやいや、流石に今日はもうやらない方がいいですよ。

緑箋君、もう疲労困憊じゃないのですか?

本当にまたこれから訓練をするわけじゃないですよね?」


「いや流石にあんなにずっと魔法を使い続けることはありませんでしたので、

とてもいい訓練になりました。

でもまあこの後の訓練は訓練っていうよりも趣味みたいなものですから、

僕にとっては娯楽みたいなものです。

学校の宿題も今はなくなりましたから、

より魔法の訓練というか研究?

自分のスキルの研究もしないといけませんし」


緑箋はどうもこの世界に来て魔法にのめり込んでいるらしい。

今までもいろんな人が付き合ってくれていたので、

あまり気にしていなかったし、

訓練室という素晴らしい場所で、気兼ねなく訓練ができるという環境のせいで、

魔法が使い放題という方が嬉しくてたまらなかったので、

自分の異常性に全く気がついていなかった。

そして遼香もまたその異常な人間の一人だったのだ。


「幽玄斎君。実は緑箋君が魔法軍に入る時に一つだけ条件を出してきたんだ。

それが私と訓練をすることだったんだよ」


「そんなこと条件にする人いますか?」


遼香の強さは幽玄斎も知るところである。

戦いたくないと思うことはあっても、

遼香と戦いたいと思う人間は存在しないといっても過言ではないだろう。

いるとしたらよっぽどの戦闘狂の人間だけである。


緑箋は戦闘狂ではなかったが、

魔法狂ではあったのかもしれない。

咲耶や守熊田や天翔彩などという魔法を使うことが好きな人間に囲まれたこと、

そして各地で出会った鬼たちなどとも交流を深めたことが、

緑箋の魔法への探究心に火をつけ続けてくれていた。

たった一年間だが、もうすでに魔法を使うことが楽しくて人生の一部になっていた。

流石に緑箋も遼香と本気で戦うことが好きなわけではなかったが、

遼香の百戦錬磨の魔法技術を学ぶことは大好きだった。

そして遼香は今までにない魔法への考え方をしている緑箋から刺激をもらっていた。

緑箋はここでもまたかけがえのない人との出会いがあり、

自分を成長させてくれていることに感謝していた。


まあそれはそうである。

新人がいきなり帝王と戦っているようなものである。

そんな機会を得られている今の立場に、

たった数日ではあるとはいえ、

緑箋は感謝して、そして柄にもなくワクワクしていた。


「あのーもしよろしかったら僕も見学させてもらってもいいでしょうか?」


幽玄斎は圧倒されていて、どんなことをしているのか知りたくなっていた。


「だめだな」


遼香はそっけなくそう告げた。


「あ、そうですよね。厚かましく申し訳ありません……」


緑箋は、そう言いかけた幽玄斎の言葉を止めた。


「そうじゃないんですよ、幽玄斎さん。

見学だけじゃダメだっていってるんです。

そうですよね遼香さん」


「そうだ。幽玄斎君。

やるんだよ、幽玄斎君も」


ああーと幽玄斎も納得した。


「わかりました。

僕も参加します!」


甲高い声をさらに甲高くして、幽玄斎も二人の訓練に参加することになった。

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