第226話 終業式

三年生がいなくなった校舎はどことなく寂しい感じがする。

一年生がいる場所の人数は変わっていないが、

三年生分の人の気配が少ないのは、

そこにいなくても伝わってくる。

魔法探知をすればそれは確実にわかるものではあるし、

普段から息をするように魔法探知をして、

体を慣らしておくような訓練をある程度行なっている生徒も多いので、

そう言った意味では魔力の総量が少なくなっているということで、

確実に感じとっている生徒も多いわけだが、

そうではなく、

人の密度や音の少なさというのが人の肌感覚として伝わってくるものである。


人を見つめているとそれを感じ取られるなんていう話がある。

そんなわけはない、気配なんか感じられない、

と思う人も多いのかもしれないが、

魔法世界だからというわけではなく、

何某か伝わってしまうことはある。

もちろん魔法を使って、実際の魔力を感じたり、

テレパシーで会話をしたり、

思考を読み取ったりということなど、

本当に魔法でできてしまうこともあるというのがこの世界の不思議なところである。


今日は魔法学校の終業式である。

一年生と二年生の最後の登校日である。

終業式も恙なく終わり、

また最後に戦闘することもなく無事に終わった。


一年一組は教室に戻り、

天翔彩祭から通知表が発行される。

端末にそれぞれの成績が通知され、

みんなは一喜一憂して笑ったり悔しがったりしている。


「はい、みんな静かに!

今通知表を発行した。

あとでよくよく確認して自分の強みや弱みをしっかり理解しておくように。

それぞれ一人一人思うところがあると思うけれど、

私は一年間、みんなと一緒にこの組で生活して、

みんなの努力と頑張りに本当に感動している。

それはきっと成績に現れていると思うし、

もし今回は悪かったとしても、

確実にみんなの力になっていることは、私が保証する。

だから、みんな胸を張って欲しいと思う」


生徒たちは天翔彩に向かって拍手している。

中には少し泣いている生徒もいた。


「今日で一年一組は終わって、

次は二年生にみんなはなるわけだけれど、

二年生になっても、みんなの素晴らしい成長を願っているし、

もちろん私もみんなの力になれるように頑張っていきたいと思っているので、

組が変わったとしても、

いつでもなんでも話に来てくれると嬉しい」


みんなは真剣に天翔彩の話に聞き入っている。


「明日から春休みということになる。

みんなワクワクしてるかもしれないし、

休みはしっかり堪能してもらいたいが、

休みといってもぜひ一日一日を大切に過ごしてもらいたい。

通知表から感じて思ったことを、

今日帰ってから一つでいいからやってみるといい。

それを毎日少しずつ積み重ねると、

振り返った時にその積み重ねが大きな力となって帰ってくるはずだ。

まあ、そう言われてもなかなかできないのっていうのは、

私も良くわかってるんだが」


天翔彩は頭をかきながらバツが悪そうに笑った。


「ただこの何かが終わるというのをきっかけにして、

新しいことを始めるというのは決して悪いことじゃない。

みんなには輝かしい未来が待っているんだから、

ぜひ色々挑戦して欲しいと思う」


天翔彩は一呼吸おいた。

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