第214話 龗の気持ち
緑箋は咲耶に龗のことで悩んでいることを説明した。
「確かにそうやねえ。
龗がどないに思ってるかが大事やしね。
じゃあせっかくだし、本人に聞いてみようか」
「ありがとう。お願いします」
「じゃあちょっと集中するね」
咲耶は生き物と同調することでその思いを共有することができる。
以前雲の土蜘蛛と会話をするために、
龗と同調してもらったことがあるが、
今度はそれを龗の気持ちを確かめるためにやってもらっている。
もちろんこれは相手の心を乗っ取るようなものではない、
また誰でも彼でも簡単に同調できるわけでもない。
異物が入れば拒絶されてしまうのは当たり前の話である。
同調する前にしっかりとした話し合いを行なった上で、
心の底から納得していなければ、
なかなか同調がうまくいかないことの方が多い。
誰だって自分の心の中を覗かれるのは嫌だから。
たとえば、自分の失った記憶を呼び戻すために、
失せ物がどこにあるのか探したりするときに、
心の底にあるものを吐き出して楽になるために、
そういった時にこのスキルはよく使われる。
今回の龗との同調は、
今までの龗と咲耶の触れ合いがもたらす好意的な効果によって、
問題なく進められているようであった。
同調といっても全ての気持ちがはっきりとわかるわけでもないらしく、
自分の意識のように入り込めるわけでもないらしい。
朧げに感じるところからそれを理解するということになるようだ。
特に同じ言語体系を持たない龗との同調は結構大変なようで、
全てを理解することは不可能である。
考えてみれば龗はおそらく神獣である。
ということは神と同調するということになるのだから、
それはそれでとても大変なことだというのは、
考えるまでもない。
ともかく、咲耶と龗の同調を見守る。
基本的には二人は向き合って動かない。
龗は浮いてだらんと伸びているだけで、
咲耶その前で正座をしてただじっとしている。
土蜘蛛の時は結構瞬間的に終わったのだが、
今回はかなり長い時間同調していて、
緑箋は邪魔することもできないので、
静かに少し離れて座って二人を見守っている。
よくよく考えてみると今の二人は完全に無防備な状況でもあるので、
こうやって安全な場所で、
安全を守れる誰かがいないと簡単に同調することもできなわけだ。
今回はこういう施設もあるので、
やりやすい環境でとても良かったなと、
緑箋は暇を持て余して色々堂々巡りをしていた。
そんなことを考えている間に、
咲耶がはっと声をあげて覚醒した。
龗も元に戻ったようでふわふわと浮いてキョロキョロ辺りを見回している。
緑箋は二人に駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫やで。
それより、緑箋君。
龗はどうやら緑箋君とついていきたいみたいやね。
というよりも一緒にいたいと思ってる。
せやから多分普通に連れて行ったら大丈夫やねんと思うけど、
どうも生駒山のことが気になってるみたいやな」
生駒山は龗と出会った場所である。
「気になってるというのは、
帰りたいという意味ではなく?」
「うん。帰りたいっていう感じやないなあ。
でも一回生駒山に行きたいんちゃうかな。
それも龗だけやったらいつでも帰れるはずやねんけど、
緑箋君と行きたいって感じやね」
「なるほど。
じゃあ、なんでかはわからないけど、
龗を連れて生駒山に行ってみるかな。
あった場所は大体わかるしね」
龗はその話を聞いて少し嬉しそうにしているようだった。
「行ける日って言った来週やね」
咲耶はもちろん一緒に行く気なのは言うまでもなかった。
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