昔のお嬢様

「おばあさん!今日は何の会食なのか分かっている?」

「え?今日の会食・・」

「あなたの百歳の誕生日の祝いの為に皆が集まったんだよ。」

「あらあら、それは有難い事で。私は去年米寿を表彰してもらったんだよ。」


「うん、今年も市役所から何か言ってくると思うけど、それに先駆けて家族で祝うために集まったんだよ。」

「あらまあ、それはそれは有難いね。」

私の母は今年百歳になり、ちゃんと会話も成り立っています。

凄いでしょう!


母は戦前の女学校を卒業しているお嬢様なのですよ。その資質は百歳になっても変わりません。あ、戦前では女学校に行くのは、町内で1人か2人ぐらいのものでしたから。


戦後のどさくさや、自身の離婚などで若い頃は大変苦労をされたのですが、熟年になると陶芸や絵画、海外旅行などを教養としてたしなみ、日本舞踊を子供たちや海外からの研修労働者の女子などに教えていました。

先に亡くなった父も華道の師範でした。あの有名な假屋崎省吾先生と同じ流派です。


ね!

”教養としてたしなむ”なんてお嬢様でしょう。

お金を稼ぐ為では無いのですよ。

教室では月謝は取らないのです。全て母の持ち出しです。


常々、私は母に言ってきました。

「子供や孫たちの為にお金を残すな。全て使い切ってくれ。」

父も母も、私のこのいつけだけは守ってくれました(笑)


今回は集れる子供や孫が8人、海沿いの料理屋に集まりました。

各人の前には尾がピンと跳ね上がった焼き鯛が並んでいます。

一応祝いですからね・・


子供や孫たちから見れば自分たちのおばあちゃんです・・

それ以上でも無ければそれ以下でも有りません。灯台下暗しでおばあさんの正体を知らないのです。


じつは・・実は

おばあさんは昔のお嬢様だったのです。

パソコンが解らなくても・・

スマホが使えなくても・・

誰もこの方には勝てないのです。



宴の後、別れ際に孫夫婦と話しました。

「百歳を越えたら後は毎年が記念日だよね。」

「毎年、祝いをしましょうかね。」



百歳以上まで生きている人の割合はどの位なのか調べてみました。

100歳以上は2万人に一人なのだそうです。

それが105歳以上になると90万人に1人という極めて稀になります。

この差をみても105才まで生きる事がどんなに難しいか分かりますよね。


母はとても快適に生きていますので、今の生活環境を維持していく事がとても重要なのですが・・

私が先に行かないようにしないとね・・(笑)


では又(^_-)-☆

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