幕引き その後
「これで理解出来た筈ですよ。今の貴女では…私には勝てないと。」
今の◾️は不完全だから。精々足止めするくらいが関の山だという事くらい分かっていた。
「大神を使徒にする事は出来ませんし…吸収してしまいましょう。」
けれど、善良な魂を持つ。幸運が極限に低い…彼なら。
「…おや。誰ですか?貴方は」
「『中立神』カオス様…不束者の『裁定神』がお迎えに上がりました。」
抱えられる。懐かしい…あの子供の香り……
「お初にお目にかかる…『熾天使』デウス様。名乗りが遅れてすまないが、私は『裁定神』エクレールと言う。」
「礼儀が正しくていいですね…良ければこれからお茶会でもどうですか?このお花なんかで作るお茶は中々に美味ですよ。」
「これは私の独断だ。長居すると面倒な事になる。故に、残念ながらこれで失礼する。」
「…つれないですね。久しぶりに出会った神なんですから…ん?貴方…よく生きてますね。きっと辛いでしょうに。」
「………。」
落ちていた花飾りを拾い、すやすやと寝ている少女の頭の上にのせてから、用が済んだと言わんばかりに男は後ろを向いて歩き出した。
「でもダメですよ?せめて、その中立神の搾りかすはここに置いていって下さい。そうすれば、貴方は逃してあげますから。」
「…そうか。」
エクレールはそのまま通り過ぎて行く。
「……?あくまでも逃げるつもりですか。分かりました…なら、ここで搾りかすと仲良く終わらせてあげますよ。後々天界にも赴き…復讐をしなければいけませんから。」
「……2度。」
「…?」
エクレールは足を止めて振り返った。
「『中立神』カオス様を2度。侮辱した。」
「まさかそんな事で怒って……ませんね。」
どこまでも無表情で、冷たく…それが何処となく…昔の『中立神』を彷彿とさせて……
「よって『中立神』カオス様の代理人として、『裁定神』エクレールが判決を告げる。」
「無駄ですよ。大神でもない貴方に何が…」
——静粛に。
(…こ、声が……まさか。まさか…!?)
被告人。『熾天使』デウス…貴君は有罪により
【今後一切、相手から危害を加えられない限り、危害を加える事を固く禁ずる。】
そう言い残して歩き去っていくのを…私はただ見ている事しか出来なかった。
………
ズッ友がいなくなった後、前を見据えながら鞘から軍刀を抜いた。
「待っていてくれてありがとう…なーんて言えばいいのかな?」
右腕の花束から無言で放たれた無数の棘を軍刀で弾く。
「……久しいね石川君。ねえイメチャン失敗してない?…君にそんな花は似合わないぜ!!」
何とか弾くが何本かが体に刺さり、何かが蝕んでいくのが分かる。
(このままだとジリ貧…接近戦に持ち込んでも…勝てる気がしねえよぉ!!!)
しょうがなく、私は…奥の手の一つを使う事にした。
………?確か…儂…は。デウス様に頼まれて…
ここは確か…レンレ荒野…
…石川。
「……っ。」
その声で振り向き…感動のあまり涙が溢れるのと同時に、体が勝手に仲間を…零士を殺そうとする。なのに、儂は安心してしまう。
「ォ、奢りの約束…破ってしまい…すまんのう。」
(この男なら、必ず……儂を)
……今、楽にしてやる。
零士が刀を抜いた時には儂の四肢は粉々に砕け、気がつけば地面に転がっていた。血がドクドクと流れていく。
「ほほ…流石の腕前ですな。そう…だ。ポケットに……」
零士は儂の胸ポケットを漁り、ずっと持っていた一枚の古い写真を取り出した。
「……懐かしいな。あの頃の…石川?」
「もう死んでるよ…零士。私達よりも長生きしてさ…いい顔して死にやがって。」
「…ああ。そうだな。戦死した兄の石川少尉にも見せてやりたかった。」
突然死んだ筈の私がパッと現れたのに、零士はその事について特に何も言わなかった。
「あ、あのさ…私の事」
「酒…ないか?石川はイモ焼酎…好きだったろ。」
「…よく憶えてるね。えーいやでも…この世界にはないんじゃないかな〜」
「……。」
「代わりに、私の秘蔵のコーヒー牛乳とかなら…」
取り出したそれをパシッと零士に奪われた。
「ちょっ…!?」
「……苦い。牛乳の方がいいな。」
「人の物を奪っておいて、それかよ…はぁ。変わんないね。君は…」
「かっ!お前もな。」
お互いに笑い合う。
「だから…これからお前がしようとしている事を止める。どんな手段を使ってでもだ。それが友として…俺に出来る事だから。」
「…うん。」
「でも…それは今日じゃない。今宵の主役は俺達ではなく…石川 儀礼だ。」
「分かってるって。次会えば敵同士…いやぁ、ちょっとワクワクしちゃうね♪」
「全然面白くねえよ…阿保。」
「うわ懐かしい!!!私よく石川君にそう言われてたよね〜」
「お前がいじけてる姿は…よく憶えている。」
「ピンポイントすぎないかい!?大体、零士も……」
その後。数時間程だったが…石川を囲んで、楽しくあの頃の思い出話をしてから、別れたのだった。
………
あ?何こっち来てんですかぁ?失敗作。
……。
チッ。ダンマリかよつまんねえなぁ。なら、煽り散らかしても大丈夫でありんすよねぇ?
…お父さん。僕は……
自分を犠牲にして、みぃんな幸せハッピィー☆とかほざくなら、いっぺん脳みそ変えたほうがいいでございますことよ?
……。
まぁーたダンマリ。じゃあ、言いますけどよぉ。失敗作…それが、テメェさんのやりたかった事ですかよ?
そんな訳ないじゃないですか!!僕は…ただ、お父さんに料理を食べて欲しかった。それだけで…
へへぇ。じゃあ、失敗作を食べた感想いっきますよ〜ホゥ!!!KU☆SO☆MA☆ZU☆I☆いやもうゲロまずでありんしたよ。ワーストナンバーワン…食えたもんじゃねえです。
……。
料理人もレ◯パーも同じ!!やり方やこだわりがある事はおいらも認めるざんす。でぇすぅがぁ…
っ!?自分や他のお客様が美味しいと思える料理じゃ駄目なんだ…なら、お父さんの味覚を研究してそれに対応出来る料理を作れば……!!
?…??まあそんな感じでいいんじゃね?ぶっちゃけ知るかー!!!って感じですけど。
なら早く…ここから出たいです。そうだ。お父さんが好きな味を教えてくれませんか?
ん〜精◯とか愛◯とか、◯とか…◯とか…後…
……
…
ありがとうございます。ちゃんとメモ取れました!!お父さんが喜ぶとびきり美味しい料理…作ってあげますね!!
おう。期待しねえからさっさと生きやがれよ失敗作…自◯行為しながら見ててやんよ。
まあチ◯コねえけどな。ゲヒヒヒヒ…
「……ぁ。」
僕は起き上がって、後ろを振り返ると…大きな白い卵が割れていて…
「突然、卵が割れて出てきて…びっくりしました。グラ…さんでいいんですよね?」
「ええ。はい……あなたは?」
「私、アンと言います…その。髪色とか…変わってますけど。」
「……?」
僕は側に落ちていた巨大な鉈を鏡代わりにして自分の姿を確認する。
(元々の灰色に白が混ざってまだら髪みたいになってますね。髪も少し伸びたような…それに。)
胸を軽く触ると少し膨らんでいる…ような?
『まあチ◯コねえけどな。ゲヒヒヒヒ…』
「お、お父さん……なんて事を!!!」
「その…大丈夫ですか?」
元々、無性ではあったけど…まさか、女性になるなんて…
(別に料理作るのに支障はなさそうだから…まあいっか。)
「…大丈夫です。それよりも…アンさん、あなたの方が…」
「ヤスリは何とか雰囲気で誤魔化せましたけど…グラさんにはバレますよね。」
アンさんは、空を見上げてこう言った。
「私の我儘を聞いて貰ってもいいですか?…『神技の料理人』としてのあなたに。」
「僕の事をご存知でしたか。その仄かに漂う焼ける鉄の香りといいやっぱりあの方の…ストスさんの子孫なんですね。」
「…え。そんな匂いしますか!?私…ヤスリに気を遣わせてしまったかも…」
「心配しなくても、僕くらいしか分からないくらい微々たるものですから…それに、鑢さんがそんな事で幻滅する人ではないでしょう?」
思い直して胸をなでおろす姿を見ながら僕は微笑んだ。
「…僕に出来る事なら、なんなりと。これも何かの縁でしょうから。」
「では…」
僕はアンさんの願いを聞いて……頷いた。
「…分かりました。少々準備する時間がかかりますが…それまでは、」
「何とか…持ち堪えますので。お願いします。」
僕は一度、道具を取りに戻るべく…懐にある銀色のベルを鳴らした。
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