9話 密約、出逢い、余興

タイタンにエンリが攻撃を仕掛るべく動き出した、丁度同時刻。


聖竜の迷宮…否、『性竜の迷宮』最深部。


「えへえへ…話はわかりっました…ヒヒ」

「……んぁ…//」


グチャ…グチュ……


何度無理矢理、◾️◾️を迎えさせられたか…記憶が定かではない。それでもまたヤろうとすると、金髪の虎の獣人はとろんとした目で力なくその場にへたり込んだ。


「…はぁ……はぁ……」


「ええ?まだ、3日も経過してねえってのにですよ?もう限界ですかい?」


「……」


「あららぁ。気絶しやがりましたか。ププッ耐久なさすぎ(笑)…まだまだ、おいらの聖剣はビンビンなのにぃ。なんつって!ギャハハハハ!!!!」


色々試してみたけど人間の姿でヤるの、意外にそそるからまたやりますかぁ。そんな事を呟きながら、形態を元の竜の姿に戻す。


「『原初の魔王』とその召喚者…一体おいらをどぉんな心地にしてくれやがりますかねぇ?」


下品に笑っていると、側でうめき声が聞こえた。


「…ぁう。」

「起きたねぇ?第二ラウンド…始めよっかな?おいらの子を孕めよっ!!」


女性の掠れた悲鳴が辺りに響くが、もう誰もいない。すでに先に来た筈の他の魔物達は…とっくに…、


肉体が壊れるまで出産を繰り返し……産まれた子供に骨まで捕食されて…糧になってしまったのだから。


(…私も……きっと。)


程なくしてその仲間入りだ。


「っ……ラルスぅ。」

「おらっ、もっとイケよ!!」


魔王城にいる彼の事を想いながら……



———陵辱されて無常に死んでいった。


……


そして時は戻る。


「…っ。」

「……どーしやがりましたぁ?」


一瞬で白濁したような髪色の姿になって、迫るダガーを片手で掴み、下品に笑いながら…僕を凝視する。


(…ステータスは魔力量以外全て並。ゲヘヘッ…確定〜)


そのまま床に僕をねじ伏せた。


「…ぐ。」

「…いつもなら、従う義理は…ないんだけどぉ〜。」


両手で僕の両腕を掴み…あらぬ方向にへし折った。


「…ぎ、ぎゃあああああああああーー!?!?痛い、痛い痛いぃ!」

「グヘヘ…いい声で鳴きやがりますねぇ。じゃあ、ちと眠れでありんす……」


激痛の中、耳障りな声を聞きながら…僕の意識は途絶えた。


……



両腕に繋がれた鎖の音で僕は目を覚ます。


「…ここは……っ。」


息が触れ合う距離に少女の顔があり、強烈な腐臭もあって思わず口を噤んだ。


「えとえとえと…生きてるノー?」


僕は無言で頷くと、少し距離をとって…ツギハキの顔で無邪気に笑った。


(エンリみたいにこの子は明らかにヤバい子だ。だけど、その服装って…セーラー服だよな?黒色って…何かこう…僕の世代的に新鮮だなぁ。)


そう思っていると、少女は僕におどおどしながら聞いてくる。


「あのあの…ここって、どこなノ?」


「…え、お前も知らな…」


「腐死って言うノ…お兄さん名前は?」


「…玉川鑢だけど。腐死か…変わった名前だね。」


「……」


紫色の目で少女…腐死は僕を観察するように見つめていた。


「あの、腐死…ちゃん?」


「ハンカチ…気配……『女帝』…ルール違反者。」


「えっと…ハンカチって…あ。」


痛みを堪えながら身をよじると、ポケットから赤いハンカチが床に落ちる。


「ねえねえ……鑢は、『女帝』の仲間なの?ねえ、ねえねえねえねえ…」


狂ったように呟く少女の姿に僕はふと、懐かしさを感じて…逆に冷静になれた。


——あの竜と戦う時、万が一の事があったらこれを口に飲み込め。


「……腐死ちゃん。お願いがあるんだけど…」


「教えて、教えて、教えて、教えて…」


「えっと…仲間とかじゃないよ。初対面でバッタリ会って…ロネちゃんに僕は強烈なセクハラ発言を言わせようとしたから…間違いなく、僕は嫌われた。つまり、そういう仲なんだ。」


「……?……??そ、そうなん、だ?」


首を傾げながら、一時的に落ち着いたようだった。


「…で、初対面だから正直、頼むのは忍びないのだけれど…」


「……」


「そのハンカチを僕の口の中にグホッ…!?」


話を言い終わる前に、腐死は床にあったハンカチを僕の口にねじ込んだ。


「…!……っ〜〜!!」

「えへ、へへへ…飲んで、飲んで飲んでっ♪」


息がまともにできず軽く死にかけながらも、何とかハンカチを飲み込む。


「……はぁ。……しんどかったっ…!」


本来なら、性竜と相対した時点でやるべき事だったが…唐突に現れたのだから仕方ない。


「…ありがとう、腐死ちゃん。」

「……それ、それほどでも、ない、ノー。」


僕の唾液で汚れた右腕をじっと眺めていた。


「えっと…拭かないのか、それ?僕としては恥ずかしいんだけど…」


「???腐死は別に、恥ずかしくないノ。」


「…っ。だとしてもそのぉ…」


腐死は少し声のトーンを落として言った。


「……久しぶりなノ。普通の人と、こんなに…長く、お話するノが…」

「……?」


その真意を尋ねようとする前に、扉が乱暴に開かれて、薄汚れた白髪の男…に擬態した性竜セクロスが両腕の鎖の鍵を解く。


「ギャハハ。大人しくしてましたかぁ?…糞童貞。場所の準備が整ったんで、行きやすよ〜抵抗しても無駄…ムダ☆ゼッテー逃げれないでやんすよ…なんつって!!アヒャヒャ……あ?誰です…??ていうか何処から…まあいっかぁ。」


セクロスが腐死を殴った…それだけで、


腐死の肉体が壊れ、四肢や臓物が部屋にぶちまけられた。


「……っ、何で!」


「おほほ〜邪魔だったんで。ていうかぁ。糞童貞がおいらに指図すんのかよ?…行く前に少し躾けるか。」


「……う。」


腹を強く殴られ僕は蹲り、胃液を吐き出す。


「…ほれ、ほれほれほれほれほれ…ほらほらほら…弱虫、弱者、チキン野郎…言い返してみろよっ!!さあ、さあっ!!」


何度も何度も、執拗に蹴られ続ける。僕は必死に体を丸くして耐える事しかできなかった。


(…僕は、無力…だな。)


腐死ちゃんが死ぬ瞬間を、僕は怯えてその成り行きを見ている事しかできなかったから。


僕のちっぽけな力じゃ、こいつに勝てない事ぐらい……もう分かってたんだ。ただ、強がっていただけなんだ。


——それは違うな…友よ。


「……?」


蹴りが止んだ?僕は体を起こす。


「……ケヒヒ…何で生きてんだよ?」


「…こ、ここの人に、手、を出さないで。」


「はぁ?…何なんだよ…ほほぅ。さては彼女かよ…アヒャヒャ……死人とか…お似合いだなぁ!!糞童貞…っ!?」


セクロスが咳き込んで吐血する。


「…はえ?何だ、これ…体、熱い…焼ける…痒い?痒い、痒い痒い痒い…これ、おいらがおいらじゃなくな…」


喉元を掻きむしっている内に、血を吹き出して…暫くするとその場に倒れた。僕は傷だらけの体で、腐死へと近づく。


「死んだと思ってたけど…生きてたんだ。本当に良かった…あらっ!?」


腐死は僕の事を米俵の様に背負い、部屋の外に出て駆け出す。


「腐死ちゃん!?どうしたんだよ!!」


「あれは…まだいるノ。」


「…え、まだいるって?」


その意味は、後ろから聞こえる声ですぐに理解した。


「おい、待てよぉ!!糞童貞と死体女がぁ…おいらを殺した事、許してねえからー!!!!」


「おいらが絶対犯し殺してやる……!!」


「いや、おいらが…」


「ゲヒヒ…どう調教してやろうか…」


「死体女はおいらの獲物だからねっ!!」


「「「勝手にするでありんす…なんつって!!!」」」


「ギャハハ…そんなん早いもん勝ちっしょ!」


………


……



僕は何千といるセクロス達の会話を聞くのをやめて、今も足を止めずに走ってくれている腐死に決意の言葉を投げた。


「一緒に生き残って…ここから出よう。僕に何か出来る事があれば、何でも言ってくれていいから。」


「分かったノー。腐死も、鑢について、気に、なってる、事がある…し…頑張るっ。」



僕は、偶然出会った少女…腐死ちゃんと共に、迷宮からの脱出を計る。


だがその時、色々ありすぎて不覚にも僕は忘れていた…彼女の存在を。



迷宮の最深部にて。


「ふ〜久々に飽食亭の飯を食べると、元気が沸くのう…まあ凡人の言葉に従うのは癪じゃったが。」


銀色のベルを闇に収納し、大鎌を取り出した。



「腹ごなしの運動じゃ。性竜セクロス…話は聞いておったが…フ。凡人がここに来るまでワシに抗う事を許す。存分に足掻けよ…トカゲ共。」



何万と迫る性竜を大鎌で斬り伏せながらエンリは、不敵に嗤った。






































































































































































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