凡人、運悪く最狂を召喚する。
蠱毒 暦
最狂との出会い
1話 やべえ終わった
———かつて『ソレニ村』だった場所は跡形も無く消滅し、ここにはもう自分と村を消滅させた元凶である『少女』しかいなくなっていた。何も言えずにこの惨状を見て衝撃を受けていると、少女は僕に問うた。
「おい凡人。お主がワシを召喚したのかの?」
「えっと、その、あの……」
返答に困っていると、いつの間にか少女が目の前にいた。次の瞬間、少女の拳が僕の鳩尾にめり込む。余りの痛みに地面に倒れ、悶絶し胃液を吐く。
「痛ぐぁぐ、ぐぼぉえええええええええ…」
「はぁ…加減はしたぞ……情けないな凡人。」
——なんで、こんな事に……激痛の中、記憶を呼び起こす。
以下回想ーーーーーーーーーーーーーーーーー
…白い空間にいた。椅子が2つあったので片方の椅子に座る。
(僕は……死んだんだ。)
そうだ……………首を吊って、自殺したんだ。
「じゃあ、ここはあの世って事なのか?」
「——まあ、そうなのかもね。私も知らないけど。」
いつの間にかもう一つの椅子に黒い軍服を着て軍刀を携えた黒髪の男がいた。びっくりして転げ落ちそうになった。
「……っ!?!?!」
「そんなに驚くなよ…心外だなぁ。」
「っ!?お、お前は神様か何かか?」
男は少し嫌そうな顔をした。
「…まあ、そう考えるのも無理もない、か。
私は神様なんかじゃないよ。ただの『漂流者』さ。」
「まあある程度は予測できるから、今日は誰も来ないと確信して一人、プライベートを満喫してたってのに。」
「はぁ。毎回この空間に誰かが来ると私が強制的に召喚されるんだぜ。酷いよねぇ。折角、温泉上がりのコーヒー牛乳を部屋で飲もうとしてた瞬間にさ。」
——いつの時代も時間外労働って嫌だよねぇ。
男はそう言って笑った。戸惑いながらも僕は男
に聞いた。
「……で、僕はどうすればいいんだ?」
「本来なら、君を『剪定者』にするんだけど……『臆病者』の後釜に『蛮勇』を据えたから頭数は足りてるんだよなぁ。」
「それって、つまり………」
(嫌な予感がする。)
———それは見事に的中した。
「君はいらない子って事だね♪」
「はぁ!?嘘だろ!!!何とかならないのかよ!!」
「何とかって、剪定者は六人が原則なんだぜ。何でか知らないけど。」
「なあ、数えてみようぜ。そうしたらワンチャン一人欠員がいるかもしれないぞ。」
「珍しいね。剪定者に自ら志願する奴は。仕方ない、折角だし数えてみるか。」
『非人』『雑魚』『女帝』『傾奇者』『蛮勇』
「そして私、『漂流者』で計六人。残念だったね。」
「ぐっ、くそ。じゃあ僕はこれからどうなるんだ……。」
男は立ち上がり軍刀を抜いて、僕の首筋に当てる。
「…私が始末するんだよ。こうやって……いつもならね。」
「ヒッ…やめ………え?…いつもなら??」
軍刀を鞘にしまう。そして僕の頭を撫でる。
「今日は本来なら非番の日だし、お互い運が悪かったって事で手打ちにしようか………面倒くさいし。」
「今本音が出たな…ていうか手打ちってお前、僕はここで永久にいなくちゃ駄目なのか?」
「う〜ん………。」
男は考え込んでいる。そして唐突に言葉を発した。
「じゃあ君、これから転生して第二の人生をその姿で謳歌してよ。」
「…!マジか。ついに平凡から卒業するのかぁ。なんかチート能力とか僕にはないのか?」
男は僕をじっと見つめた。
「…全てのステータスが全て並。精々、魔力が常人より多いくらいかな?」
「魔法系って事か!?一体どんな魔法が、」
「……勘違いしてると思うから一応補足すると君の魔法適正はゼロだよ。」
「…………は?」
僕は椅子から崩れ落ちた。
「…じゃあ、僕はただの無能じゃないか。」
「そう決めつけるのはまだ早計だよ。」
男は僕に何かを渡した。
「これは……?」
「ん?白いチョークだよ。君の時代じゃもうないのかな?」
「いやあるけどさ。これでどうしろと……。」
「簡単さ。転移した後にどこでも良いから『召喚陣』を描くんだよ。君は魔力量だけは多いからさ、運が良ければ当たりが出せるかもね。」
「なあ、召喚って魔法みたいなものじゃないのか?」
その言葉に男は感心したように頷いた。
「確かに君の言う通り、召喚は魔法に含まれる。まあだからといって、召喚を一括りに魔法であるかといえば違うんだよ。多種多様なのさ、召喚は。まあその辺は深掘りすると複雑だから置いておくとして、要は、召喚陣とその対価になり得る物さえあれば、召喚は成立するって事さ。」
「そ、そうなのか。そもそもどうやって召喚陣なんて描くんだ?」
「それはほら、右手を出してよ。」
言われるままに、右手を出した。男の手が触れる。
「…これって握手じゃないか?」
「……。」
男は黙って僕の手を握っていたが……手を離した。
「…ん。これで大丈夫だよ。」
「お前、今何をしたんだ?」
「何、ただ召喚陣の描き方をその手に覚えさせただけだよ…詠唱とかは適当にやればどうとでもなるから安心して。……じゃあそろそろ行こっか?」
「どこに………って!?」
白いドアがどこからともなく、出現していた。
「…このドアを開けたら、君の第二の人生がスタートって訳さ。精々応援してるよ。」
「……なんか、色々とありがとな。」
「私は感謝される様な奴じゃないよ。そこだけは勘違いしないで欲しいな。私は基本的に悪者だからね。」
「…でも、悪者だって誰かは救ってるだろ。」
男は一瞬、息を呑んだ。
「少なくとも、僕を助けてくれた。」
「……。」
「…僕の名前は玉川鑢。お前の名前は?」
「今更だね。はあ……もしも剪定者に空きができたら、改めて話す機会を設けるからその時にでも教えるさ。」
「…今教えてくれたっていいじゃないか。」
「そんな事よりも私は早く帰って、部屋の掃除がしたくてね。今頃、コーヒー牛乳で布団が染み付いている頃だろうからさ。」
そんな事を聞きながら、僕はドアノブに手をかける。
「………『異世界アリミレ』」
「えっ?」
「君がこれから行く場所だよ。それじゃあ、良い旅を。」
ドアを開けた瞬間、吸い込まれる感覚がして、意識が途切れた。
———気がついたら村の中にいた。
「ここは…。」
日差しが眩しい。どうやら『異世界アリミレ』に来たらしい。
(早速、召喚陣を描ける場所を探そう。)
流石にど真ん中で描くのは気が引けたので、まずは、村を探索する事にした。村人の声が聞こえる。
「安いよー!キャベツひと玉15シルだ!!」
「旦那〜それくれよ。」
「おっ坊主か。ほらよ。おまけだ。」
「いいの!やったあ!!」
「この服、今なら半額ですよー!!!」
「え!?本当ですか!それ下さい。」
「はーい。こちらをどうぞ。きっと似合いますよ!」
「あはは。ありがとう!」
「すいませーん。宿借りて良いですか?」
「ええ毎度!ささ、こちらへどうぞ!」
村は活気で満ち溢れていた。ふと看板を見つける。
「……ここソレニ村っていうのか。」
そんなこんなで、村外れの広場にやって来た。
辺りには人はいない。
「……よし!」
正直、召喚陣をあんな握手だけで本当に描ける様になるのかと思ったが…その考えは杞憂に終わる。
「…うわっ!?」
チョークが地面に接した瞬間、自身の意識とは関係なく右手が勝手に動き出し、あっという間に出来上がったからだ。
「すげ〜。で、後は詠唱か。あいつは別に何でもいいって言ってたけど……。」
いや、何でも良くはないんじゃないか?と内心ツッコミを入れる。ふと疑問が浮かんだ。
「そう言えば、こういう召喚って基本的にはどういうのが出てくるんだ?」
古今東西のアニメとかゲームとかの場合…獣人、精霊、英雄、神とか天使……下手すると怪物とか悪魔という線もあるんじゃ………。
(まあ、召喚してから考えよう。)
心を切り替えて、詠唱をしようとする。
「わ、我が深淵を覗く者よ来たれ……いや駄目だ、恥ずかしすぎる!?」
とても、19歳の大学一年生がやる事ではない。
誰も見ていないとはいえ、恥ずかしさで頭を抱えた時だった。
「……ん?」
魔法陣が黒く輝き出す。そして………現れた。
——小学六年生くらいの……裸の少女だった。赤茶色の髪が地面についている。その金眼が僕を睨んだ気がした。
「えっと…何で裸なの?」
「…………。」
少女が口を開こうとした、そんな時だった。
「——とんでもない気配がしたと思って来てみたら…これはこれは。」
広場にいつの間にか、タキシードを着ていて、翼を生やし、頭にツノがある男がいた。
「お、お前………悪魔か何かか?」
「正解です。私は魔王様の四天王の一人、悪魔テネホと申します。そちらの少女に用がありましてねぇ。」
少女は腕を組み、何かを考えている様だった。テネホは何らかの魔法か能力を使ったのだろう。槍が出現して、穂先を僕に向けた。
「なので、まず邪魔なあなたを始末します。悪く思わないで下さいね。」
テネホがゆっくりと向かってくる。ただの凡人だと分かっているのだろう。僕は為す術もなくその場で尻餅をついた。
「みっともないですね。では…死になさい。」
命乞いをしようと叫ぼうとした瞬間、少女は何かを呟いた。
「…フ…悪魔か。」
そう言った途端、僕の視界が漆黒に染まった。しばらくして、視界が晴れた時には、テネホはいなくなっていて……村が消滅していた。
「悪魔と聞いて、少し本気で相手してしまったが……『奴』とは違い、話にもならなかったのう………やり過ぎたわい。」
少女は一人呟いた。
回想終了—————————————————
……そして今に至る。少女は呆れた声で言う。
「………いい加減に起きろよ。そこはちゃんと加減したからの。もう痛みはない筈じゃ……起きなきゃ殺すぞ。」
無言で即、立ち上がった。一応弁明する。
「…別に僕は小学生女子脅されて、立った訳じゃないからな!!」
「はぁ?……馬鹿にしておるのか??」
どうやら少女は、少し引いている様だった。
「このワシを前にしてその態度…凡人、さては何か企んでおるのか?」
適当に嘘ついたら殺されそうなので、真面目に答える。
「…僕が召喚した訳だから、お前を従わせる事ができるんじゃないかって……ワンチャン思ってる。」
「真面目に答えてどうする。アホか凡人。」
少女はため息をついた。
「一応…聞いてやるが凡人、うぬの目的はなんじゃ?」
「え?」
そう言えば、ここに来た目的って……。
ふと閃いた。
「さっきまで無かった……けど、今は違う。」
「良い。答える事を許す…申せ。」
深呼吸してから、少女を指差し言う。
「お前に服を着せる事だ。」
僕はそう宣言したのだった。
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