君と案山子

ぷーみん

第1話 初めまして(?)案山子さん

キーンコーンカーンコーン…

授業終了を知らせる素晴らしい音が鳴る。


「じゃあ来週からテスト期間だからな!しっかり勉強しとけよー!」

「今日これからどこ行く?」

「この前のゲーセン行こうぜ!」


先生の言葉は生徒の声でかき消されていた。

みんなが騒ぐのも無理はない。今日はまだ水曜日だが、明日からは全部の授業が自習。

これが最後の授業だったのだ。


「赤桐!帰ろうぜ!」

そう俺に声をかけたのはクラスで1番仲のいい金森健吾(かなもり けんご)。

高1・高2・高3と、3年間同じクラスだ。


「おう。」

「赤桐くん!金森くん!また明日!」


…清水麗香(しみず れいか)だ。

あいつはこの前まで誰とも群れない、いわゆる一匹狼というやつだったはず…。

「麗香ー!早く帰ろー!」

「今行くー!」

そう言うと清水は急いで教室を出た。



「あいつ最近変わったよな。」

金森と下校中、ボソッと口からでていた。

「清水の事?確かに自分から声かけるタイプじゃなかったよなー!まぁ明るくなったしいい事じゃん?…え、何?清水の事気になんの?」

「馬鹿、そんなんじゃねぇよ!」

「そんなムキになるなよ。冗談だろ?それより明日、学校ちゃんと来いよ!」

「なんだよ、自習だからサボると思ってるのか?」

「ちげぇよ。寄り道して迷子になんなよって言ってんだよ!」

「ならねぇよ!」


金森のやつ…。俺をいつまでも子供扱いしてきやがる。確かに過去に何度か寄り道をして学校に着く頃には放課後…

なんて事もあったが、俺はもう高3年。立派な大人だぜ。迷子になんかなるかよ。


というフラグを立て、次の日、森の中を彷徨っていた。



「やべぇ、もう昼過ぎてる…。」

珍しく早起きしたから、子供の頃怖くて行けなかった山を散策してみるか!と思ったのが間違いだった。

朝から山なんて行くなよ俺…。


帰り道が分からなくなり、今はたぶん山の中間?くらいにいると思う。

(金森ごめん、今日はサボるわ!)

と開き直り、このまま散策続行。


(小学生の頃はこんなとこまで来れなかったけど、冒険っていつになってもワクワクするな…)

と、気分よく散策しているとやけに開けたところを発見した。


(なんだここ?誰かいるのか…?)

恐る恐る茂みに隠れながら覗いてみると

そこには【案山子】が立っていた。


(なんでこんなところに案山子が…?人でも住んでいるのか?)

とその時、


「りすちゃーん!きのみくれるの?♡ありがとねぇ!♡」

…は?

今、案山子が喋った…?そんなわけ…。

よし、ここは見なかった事にしよう。来週は大事なテストだ。帰って勉強しなきゃなー。

忙し忙し。

と頭をテストの事で無理矢理いっぱいにしながら引き返そうとした。


「パキッ」


……。

なんでここで枝を踏むんだ俺…!

そんな漫画的な展開求めてねぇよ!


(気づかれてねぇか…?)

案山子の方をチラッと見てみると、案山子もこちらを見ていた。


「うわああああぁぁぁぁ!」

俺が叫ぼうとする前に案山子が叫んだ。


「なんでお前が叫ぶんだよ!」

思わずツッコミをいれてしまった。


「ごめんなさいごめんなさい、この事は誰にも言わないでくださいいい!」

えらく怯えている。そのせいか、こっちは少し冷静になれた。


「…。お前、本当に案山子なのか…?」

もしかしたら誰かのイタズラで案山子が喋っているように見えるだけなのか?

遠隔操作で動かしてるんじゃないか…?

と聞きたかったのだが、すごく間抜けな聞き方をしてしまった。


「どこからどう見ても【案山子】では?」

おい、さっきの怯えた案山子はどこにいったんだよ。

「あの…私の事…」

「誰にも言わねぇよ。てか誰も信じないだろ。」

案山子は安堵の表情をした。


「お前、ずっとここで1人でいるのか?」

「え?えぇ、そうですね…。こんな山の中なんて誰も来ませんよ。」

「ていうか、なんで喋ってるんだ…?」

「なんでと言われても、なんででしょうね。」

案山子もなぜ自分が喋れるのか分からない様だった。



最初は不気味だと思ったが、俺と案山子は次第に友達と話しているかの様に打ち解けていった。


「やべ、もうこんな時間…。そろそろ帰らなきゃ。」

「あ…。」

(そうかこいつ、ずっと1人だったもんな…)

寂しそうな表情をしている案山子に俺はつい、

「大丈夫、明日も学校が終わったらすぐここに来てやるよ。」

「本当?絶対だよ。」

「あぁ、約束する。」

そう言って俺は家に帰った。



それから毎日、俺は放課後になると山に行った。

案山子はあまり自分の事を喋りたがらなかったので、俺の話をずっと聞いていた。

特に学校の事に興味があるみたいで、授業の話やら俺の友達の話をよくしていた。

今日もいつもの様に案山子に会いに行くと早々、

「今日は友達とどんな話をしたんですか?」

と案山子が聞いてきた。


そこで俺はピンときた。

(さてはこいつ、友達が欲しいんだな…?)


察しがいい俺。

案山子の為に何かしてやれることはあるか…?


「そうだな、世間話くらいで面白い話はなんも……。そういえばクラスに清水って奴がいるんだけどな、そいつ前までは誰とも関わりません!って感じで無愛想だったんだが、最近やたら明るくなって今じゃ男女共に人気者なんだぜ。」

「そうですか。」

「そうですかって…。お前も無愛想だなぁ。友達欲しいなら、清水を参考にしてみたらどうだ?」

「え?」

案山子が真顔で反応する。

「えっ?」

思ってた反応じゃなかったので俺も思わず「えっ?」と返してしまった。

(違うのか…?いやでも、毎日友達と何したか聞いてくるくらいだから、きっと欲しいんだよな…?)


「別に欲しいだなんて思ってませんよ。友達なんかといるより、1人でいるほうがずっと気楽です。」

「嘘つくなよ。俺が帰ろうとしたら寂しそうにしてたくせに。素直にならないと世の中損することばっかだぞ!」

「案山子にそんな説教されても。」


…それはそうだ。この案山子、人間臭さがあるせいか、つい人の様に接してしまう。


「お前、愛嬌ねぇなぁ…。」

「なんです?また説教始めるつもりですか?」

「うるせぇ!油性ペンで顔に落書きするぞ!」

「やめてください!」


数分程言い合いをした。喧嘩する程仲良くなった…のか?


「ちなみにその清水さんて方は急に明るくなったんですか?」


なんだよ、やっぱり興味があるんじゃねぇか。

「夏休み明けくらいかな…。別人ってくらい変わったぜ。そういえば昔は笑う時に髪をクルクルする癖があったけど最近はしてない気がするな。」

「よく見てるんですね。好きなんですか?」

「ちが…!お前までそんなこと言うか!!」


なんて、今日もくだらない会話をしていると

いつの間にかすっかり日は沈んでいた。


「…じゃあそろそろ帰るわ。」

そう言って帰ろうとした時、

「あの…。」

「ん?」

「いつも来てくれて…ありがとうございます…。」

「えっ!?!?」

急に素直になった案山子に驚き、本日2度目の「えっ」が出た。


「そんなにびっくりしますか。」

「ごめんごめん。じゃあまた明日な!」

「また明日…。」

案山子は嬉しそうな顔をしている。


案山子のやつ、可愛いところあるじゃねぇか。



-その日の夜-

『続いて天気予報です。明日は気圧の谷や低気圧の影響で朝から雨となる見込みで、夕方にかけて土砂災害に十分注意してください…。』


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君と案山子 ぷーみん @herapiyo

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