強兵しすぎた悪役貴族、勇者の死に戻りに悩まされ、スパイ活動と称し、勇者が死なないようにパーティに潜入するも、なぜかめっちゃ崇められる
広路なゆる
01.スパイ始めます
(うわ……また死んだよ……
とあるゲームの悪役に転生してしまった男は悩んでいた。
彼の名はルーファ。
ファンタジーRPGゲーム"プレミア・ドリーム"の世界、その悪役にして魔王の配下……八鬼将の一人であった。
八鬼将とは、魔王直下の四天王の更にもう一段下の階級のボスであり、ストーリー道中の要所で中ボスとして登場する。
ルーファはその中の一人。
さして目立たないタイプのボスであり、大した見せ場もなく、勇者に滅ぼされるキャラクターであった。
前世の記憶が蘇ったのは、ルーファの少年期の頃……つまりゲーム本編が始まるだいぶ前であった。
最初は絶望した。
何せルーファの配役はイキってざまぁして、勇者らを勢いづけるためだけの完全なる"かませ犬"。
だが、ルーファはそんなかませ犬となる結末を変えるために、少年期から努力した。
めちゃくちゃ努力した。
結果……ゲーム本編が始まる頃には……
(しまった……やり過ぎたか……)
気付けば、彼は八鬼将どころか四天王……よりも更に上の役職が新設され、魔王に、もしものことがあった時に代わりに魔王となる存在、副魔王となっていたのである。
その上、彼は自分自身のみならず、平和ボケにより、腐敗していた魔王軍を内部から改革し、魔王軍全体を強兵化してしまったのであった。
ちょっとやり過ぎたかなと思いつつも、油断も慢心もなかった。
まさに「どんと来い! 勇者」状態だった。
しかしだ。いざゲーム本編が始まる時期を迎えても、勇者が一向に来ない。
それどころか奇妙な現象に悩まされることになる。
それは記憶を残したまま時が巻き戻ること。
しかも何の前触れもなくそれは起こるし、記憶が残っているのも観測範囲では
(……転生者だからなのかなぁ)
ルーファは一旦、それで納得した。
最初は致し方ないと思っていたルーファであったが、流石に10回近く繰り返された頃にはうんざりし始める。
同じ出来事が何度も起こるわけだから、次第に面倒になり、対応も適当になっていった。
そして、その頃には、ループのトリガーがどうも"勇者の死"であることがわかってくる。
ループが発生して、即座に再びループが発生することもしばしばあったが、魔王軍が勇者に最初の刺客を送った時にはかなりの高確率でそれが起こるからである。
30回までにはほぼ確信に到る。
(……要するに物語の主人公たる勇者には
そう願っても結果は変わらない。
副魔王の権限を使って、最初の刺客を送るのを先延ばししたりもした。
しかし、結局、しばらくするとループは発生した。
38回目の時、一度だけ、三か月経ってもループが発生しないことがあった。
その時は、勇者の動向も一切、掴めなかった。しかし、もうループが起きないのか! と喜びかけた時に、やはりループが発生した。
以降は一週間以内にループが発生することが続き……
そして、今回が99回目……ルーファはノイローゼになりかけていた。
「ルーファ……ルーファ……ルーファ……!」
「っ……!」
ルーファは呼びかけられていることに気付く。
「……ルーファ……大丈夫? 目が虚ろよ……」
「あ、あぁ……すまん……」
ルーファを呼びかけていたのは、魔王である。
白銀の長い髪に二本の黒い角が生えている。
褐色の肌、透き通るような青い瞳の目は意思が強そうであるが、それでいてどこかあどけなさの残る絶世の美女。
それが魔王のレイシアであった。
そんな魔王レイシアとルーファは二人で、最近、
この魔王レイシアとの話し合いがルーファにとっての"ループの始点"である。
しかし、過去に99回……この99回という数字すら正しいのか怪しいわけだが、それはそれとして、今回で100回目。
100回目ともなると、正直、どうでもよくなってくる。
魔王レイシアは、「下民のくせに、この私に反旗を翻そうとしているなんて……どんな屈辱的な結末を与えてあげようかしら……」なんてほくそ笑んでいるが……
(……どうせ
とルーファはやる気なし。
「ルーファ……少し疲れているんじゃない? ここまで頑張ってきたものね……」
そんなルーファの姿を見てか、魔王レイシアはルーファを気遣う。
「あぁ……そうかもな……」
(レイシアが言っている"ここまで"というのは、ゲーム本編開始前までの俺の努力のこと……俺が疲れてるのはそれじゃないんだよな……)
「そうだ、ルーファ、気晴らしに何か新しいことでも始めてみたら?」
「……新しいこと?」
(………………っ!!)
その時、ついに閃く。
「レイシア……俺は
「え……!?」
魔王レイシアは驚く。
(……流石に唐突過ぎるか)
「…………いいじゃない」
「え……?」
「いいわよ、ルーファ……奴らを泳がせるだけ泳がせて、最後に後ろから刺すっていう算段よね……?」
「え、あ、うん……」
「最高よ、ルーファ……流石は私のルーファ……本当に私のことをよくわかってるわ」
「そ、そうかな……」
(……思いの外、いい反応だ)
「いい? ルーファ、やるなら最高潮……貴方への信頼が最高潮に達した時に刺すのよ?」
(……いや、流石にそこまではやらなくてもいいんだけど)
「じゃ、じゃあ……俺がスパイをやるのはいいとして、
実はルーファは当初から素性を隠しており、魔王軍において影の存在。
彼の素顔を知るのは、この魔王レイシアをおいて、他にはいないのである。
「何言ってるの? ルーファ、敵を騙すには味方からって言うじゃない?」
「え……つまり……」
「一切の手加減はしないわよ?」
(……まじか)
「じゃあ、俺は襲ってくる魔王軍に対して、どう対処すればいいんだ?」
「お好きに」
「え……?」
「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ……私は貴方さえいれば、他には誰もいらないから」
魔王レイシアは不気味に微笑む。
(冗談はさておき……)
「ひとまず方針はわかった。ならば、お言葉に甘えて好きにさせてもらう」
「……もう!」
釣れないルーファに対し、魔王レイシアは少し頬を膨らませる。
(……?)
「まぁ、いいわ。ルーファ……それじゃあ、必ず
「……わかった」
「あぁああ、
魔王レイシアは
(……すまん、レイシア。多分、勇者には辺境でスローライフでもさせるわ)
そうすれば、勇者が死ぬこともなくなり、この死に戻りに悩まされることもなくなるはずだ。
ルーファはそう思っていた。
しかし、そう上手くもいかないのであった。
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【あとがき】
少ししたら二話、投稿します。
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