第2話 血の主

「軽率に人に刀を向けてはいけないよ。つけた傷や奪った命の重みは自身の刀にかかって、一生つき纏う。」


 そうだよね、師匠お兄ちゃん


 姫崎を斬ったことにより冷静になった警官が三人に謝罪をして回る。避けられたがわざと斬られたこと、これに懲りたら二度とこんな刀の使い方をしないことを約束させた。

 町の人にも頭を下げながら別の警官に腕を引かれていく。軽く止血した指からはもう血は流れていなかった。包帯を巻いて手袋を嵌めなおす。


 帯刀が一般に禁止され始め、人々はどうしても刀に過剰反応してしまう。結果、帯刀者一人に警官が押しより大きな騒ぎになっていた。しかし、青年の刀の拵えの下緒は鍔にかかり、抜刀できないようになっている。

 

今にも斬りかかりそうな警官と青年の間に割って入り、素手で刀を受け止めたことで場が冷静さを取り戻し、落ち着けることができた。

 良い判断だったかはまた別の話だ。警官は反省し、怪我人は私一人。その事実で十分だ。


「最初気づかなかったよ。またちょっと背が伸びたんじゃないか?」

 そう語る青年、一炉朱現はかつての仲間に当たる。幕末の四大人斬りの内の一角、《朱》と呼ばれた男だ。ざっくりと切られた段のある青い髪を一つに束ねた良い顔立ち。黒い袴は昔と変わらない。

「まずはきちんと御礼。すみません、助けていただきありがとうございました。」

 一炉の隣で頭を下げる。

「いいえ、どういたしまして。でも仕事だし気にしないで。」

 蘭林檎と名乗った彼女は名前に負けることのない綺麗な赤髪が特徴的だ。傷を心配する視線に気づき、警官と同じ説明をする。彼の今後を案じた、私なりの贈り物だ。


「朱現くんと林檎ちゃん、この後暇?今からお昼ご飯食べに行こうと思ってたの。良かったら一緒にどう?」

 後始末は部下、剣の面々に任せてある。朱現くんに会うことができたのは数年ぶりだ。既に聞きたいことがいくつかある。その刀。林檎ちゃんとの関係。今までどこにいたのか。

「是非!でも、その前に貴方の名前が知りたいわ。」

 すっかり失念していた。林檎ちゃんとは初対面だった。どこか知っている気配と近しいものを感じているが。

 曇りのない笑顔を向けた。

「私は…。」


 少女はただの少女ではない。警官でもない。

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