ニセモノの神様
美崎あらた
第1話
僕は小学生である。名前は言わない。
僕はまだ三年生であるけれど、将来有望な小学生であると期待されているから、お母さんにおつかいを頼まれた。
一〇〇〇円札を渡され、商店街にあるスーパーで、牛乳と卵と食パンを買ってくるようにとのことだった。おつりは僕の好きにしていいらしい。
何度も言うようだが、僕は非常に優秀な小学生である。だから、おつかいにかけるお金を最小限にし、手元に残るお小遣いが最大となるようなお買いものプランを練るため、計算をすることにした。
計算をするには、何か書くものが必要である。僕は二階の自分の部屋に、自由帳といくらかの鉛筆があることを思い出した。
「いざゆかん」
大仰な独り言を述べて、僕は階段をのぼり、自分の部屋へ行った。
そこで―――いや、正確にはその部屋のベランダで―――僕は一人のお姉さんと出会った。
お姉さんというのは、血縁関係における『姉』ではなくて、普通に知らない年上のお姉さんだった。
お姉さんはこちらに背を向け、ベランダで仁王立ちしていた。
お姉さんが、こちらを振り返る。
途端、僕はゾワゾワっとしてしまった。全身に鳥肌が立つ感じである。それは、お姉さんが美し過ぎたためだった。
小学校にも、僕が気になっているカワイイ女の子はそこそこいるけれど、お姉さんの美しさの前では、月とすっぽんもいいところだった。
お姉さんは金色の長い髪を翻し、白くまぶしいワンピースをはためかせながら振り返り、僕を手招きした。
僕は、まるでその手の動きに操られるかのように、フラフラとベランダへ寄り、窓を開けた。
お姉さんと、対面する。そのブルーの瞳に見つめられると、顔が火照ってしまった。普段は理知的な僕の顔が台無しである。
「あたしが誰だかわかる?」
お姉さんは、森の泉のように透き通った声で、僕に尋ねた。
「天使?」
僕は、頭脳明晰な僕にしては珍しく、呆けたようなことを言った。
「惜しいわね。あたしは神様よ。女神様なの」
お姉さんは胸を張って言った。その拍子に豊満な胸が揺れる。またもや僕はゾワゾワっとしてしまった。
「あたしは神様よ。あなたはあたしの言うことを第一に聞かなければならないわ。わかった?」
「うん。わかったよ」
僕は即座にうなずいていた。そのお姉さんの言葉は、クラスのカワイイ女の子の言葉よりも、お母さんの言葉よりも大事なことのように思われた。
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