第57話 大阪での一夜&篤サイド

「あのなぁ~統二~、このワタシがいるというのに環菜さんにデレデレするとわぁ~」


「そうですよそうですよっ! 確かにきれいな人でしたけどっ!」


 ホテルにチェックインした後、夕食をとるべく入店した串カツ屋で……。


「「む~っ!」」


 俺は酔っぱらい萌香とぷんすか理沙に絡まれていた。


「いやそりゃお前ら、お客さんには愛想よくするだろ!?」


「だだの客だとぉ~? 確かにお前は外面は良いがぁ~、それはそれで失礼だぞぉ!」


「そうですそうです! トージさんにはキャベツしかあげません!!」


「ちょっ、おまっ!?」


「カカカ、ええ気味や」


「ふふっ、仲良しさんですね!!」


 二人に両腕をつかまれ、締め上げられているというのに笑っている雄二郎と美里さん。


「おい雄二郎、助けてくれよ!」


「アホか。たまには天罰が落ちないとな!」


「な、なぜ!?」


 無慈悲な返事に絶望する。


「さぁて、いい感じに酒も回ってきたしぃ~、じっくりお話ししようかぁ」


 焼酎ボトル(未開封)を握りしめ、いい笑顔を浮かべる萌香。


「あ、モエさんっ! わたしも手伝います!!」


「助かる! さすが我が戦友!!」


 止めるどころか、萌香を焚きつける理沙。


「わたしはまだお酒は飲めませんが、トージさんには秘密の弱点がっ」


 ずるずるずる


「うわあああああああああっ!?」


 なぜか店主の計らいで用意されていた別室に、俺は連れていかれたのだった。



 ***  ***


「ふむふむ、あれがしゅらばというやつか、ゆーじろー?

 いと趣深いの!」


「せやでコン助。

 いろんな女性に無自覚でコナをかけまくっとるとな、ああなるんや」


 串カツを肴に生ビールをあおっている雄二郎が豪快に笑う。


「平安の世に浮名を流した在原業平みたいなものかの?」


「お、コン助! よく知っとるやんけ!」


「むふ~」


 トージの一族が増えるのは好ましいが、あまりにヤリ過ぎるとすきゃんだるになってしまう。

 特にあのお姉さん……環菜は少し気になる。


(注意しておくことに越したことはないの!)


「ま、男女のあれこれはまだコン助には早いやろ」


 ぽんぽんとコンの頭を撫でる雄二郎。


 それはそうかもしれない。

 何よりこの串カツという食物、美味すぎる!


「コン助、ソースの二度付けはご法度だから気を付けるんやで?」


「うむ!!」


 コンはパクパクと串カツを平らげるのだった。


「うふふふふ、恋愛模様がどう転んでいくか楽しみですね!!!!」


「いやだから、美里さん趣味悪いですって」


 ぺしん


 またもや礼奈のツッコミが炸裂する。


「そうですそうです! 恋愛というなら、この不肖雄二郎と!!

 美里さん、この近くに行きつけのバーがあるんですが!!」


(スル~)


「……雄っち」


「な、なぜやっ!?」


 雄二郎の悲鳴と共に、大阪の夜は更けていった。



 ***  ***


「ふぅ、今回の交渉は少々骨が折れたな……」


 群馬県に出現した有望な新ダンジョンの獲得交渉を終え、自宅兼オフィスに戻ってきた篤。


「まったく、新興企業のくせに生意気な!」


 今回入札のライバルとなったのは、数年前に起業したばかりのダンジョン関連企業。

 どうやら配信業を行っている竹駒プロダクションと同じ資本が入っているらしい。


「半年前まで零細企業だったはずなのだがな」


 結果的に競り落とすことは出来たものの、かなり予定外の出費を強いられた。


「まあいい、環裳……いるか?」


 執務室の背後、二重にロックされた隠し扉の鍵を開け、麗しの女神の住まう部屋に入る。


「……いないのか」


 いささかがっかりした顔で、主のいない部屋を眺める篤。

 現界した憑神である環裳は高位の神だ。

 たまにこうして人間化を解き気ままな散歩に出ることがある。


 彼女の庭たるTokyo-Firstにでも行っているのかもしれない。


「ちっ」


 当てが外れた篤は、せめて晩酌でもしようと執務室の棚から高級ウィスキーを取り出す。


「……そういえば、今日からダンジョンフェスだったな」


 ダンジョン協会が大阪の産業界と共催する、大規模広報イベントだ。

 正直一般人への広報になど興味はないが、最大手のダンジョン企業である穴守グループとして協賛だけはしておいた。

 篤の商売の基本は圧倒的な資本規模を後ろ盾にした裏工作であり、いまさらフェスで顧客を募る必要などない。


「そんなことよりも、大深度探査の準備を進めねば」


 Osaka-Secondの所有権の一部を獲得すべく進めている大規模探索プロジェクト。

 来年の春には実施したいと考えている。


 担当させる探索者の選定とライバルとなる企業の追い落とし。

 やることはいくらでもあった。



 ***  ***


 同日夜……新大阪駅


「ボク、とうちゃああああああああああくっ!!」


 真っ赤なスーツを着た一人の男が、部下の男性を連れ新幹線から降り立つ。


「お忙しい父上に代わり、この銅輔がダンジョンフェスを視察するのだぁ!!」


 協会の主催イベントとはいえ、穴守グループの人間が参加しないのは駄目だろう。

 なぜかボクには招待状が届かなかったが!

 郵便事故でもあったのだろう!!


「なーはっはっは!! 待ってろよ萌香!!」


 よく考えれば、まだまだチャンスはあるではないか。

 明日のデモ攻略で成果を残せば、萌香はボクに惚れ直すに違いない。

 その可能性は素粒子すらもないのだが、銅輔はめげないバカだった。


「あの、坊ちゃんもう少し声を抑えていただけますか……」


 諦め気味の部下。

 篤も知らない銅輔の参戦が、更なる騒動を引き起こすことになる。

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