第28話 村にバスが来た
「「おお~!」」
ブウウンッ
『倉稲探索者ビジターセンター』
と書かれたバス停の前に、路線バスが停車する。
ぞろぞろと数十人の若者がバスから降りてきた。
「ひゃ~、倉稲地区なんて初めて来たよ」
「うおっ、クソデカいショッピングモールが出来てる!?」
「こんなの、名古屋にもないんじゃね?」
「テナント続々オープン予定だって。楽しみ!」
「は~い、採用面接受験者の方はこちらにお願いします!!」
「「「はあぁ!? 竹駒美里!?」」」
なぜか直々に美里さんが倉稲探索者ビジターセンターの正社員及びバイトの採用面接を担当してくれる事になった。
ダンジョンにかかわる仕事と銘打って募集しただけあって、美里さんのことを知っている人が多そうだ。
「マジか……この仕事って竹駒プロが関わってんの?」
「条件もやけにホワイトだったんだよな……オレもうここに移住しようかな?」
「それもありか~」
美里さんに連れられ、ビジターセンターの事務所に向かう志望者たち。
「凄いね! 人がこんなにたくさん!
それに、毎日バスが来るなんてすごいよ~!」
「これで山高市内のおしゃれスポットに行ける!
礼奈ちゃん倉稲のトレンドリーダーから岐阜のトレンドリーダーになるわ!」
嬉しそうに手を取り合ってクルクル踊る理沙礼奈姉妹。
山高市内にそんなモノあったっけ?
と思うが、そこはツッコまないのが優しさだろう。
「俺が学生の頃なんて、トラクターを改造した連絡バスが、週三便来るだけだったからな!」
「ほんとですよ~♪」
「いや、ホンマにそれ平成末期の日本の話なんか!?」
信じられないという表情を浮かべる雄二郎。
俺が中学生のとき、豪雨災害で峠の道が通れなくなったからな。
悪路走行可能なトラクターバスが運行されていたのだ。
「信じられへん……」
それほど倉稲村は規格外のド田舎だったのだ。
それが、1日7往復もバスが来るなんて!!
当時を知る俺もうれしくなってしまう。
「それで、移住者向けアパートの方は順調なんだっけ?」
「せやな!
マンションデベロッパーが何社か手を挙げよったから、競争入札させたわ。
コンすけがガワを建ててくれたから来週には完成すんで」
「マジか!」
「にはは! 頑張ったのじゃ!」
誇らしげにダブルピースするコン。
現在のダンジョン到達深度は第七階層。
ダンジョンスキルとして、”住居建築”をゲットしていた。
「平屋から五階建てまでの家建て放題なんて、チートにもほどがあんぞ?」
「おう、俺自慢の愛娘だからな!!」
コンを抱き上げ、もふもふする。
「むふふ~」
くすぐったそうに目を細めるコンは、最高にかわいい。
「あまり娘にばかりかまけてたら、婚期が遅れんで?」
「お前に言われたくないわ」
「なんやて!」
「にはは! トージもゆーじろーも大差ないのじゃ!」
「「あれぇ!?」」
俺と雄二郎の色恋事情には全く関係なく、倉稲村発展計画は順調に進んでいた。
倉稲村の人口:38人→75人(移住者ゲット!)
*** ***
「これだけのトンネルを赤スキルで作ったというのか?」
目の前に口を開けているのは、倉稲地区に至る長大トンネル。
そこに繋がる交差点の近くにあるコンビニの駐車場。
少々趣味の悪い真っ赤なスポーツカーの後部座席から降りてきたのは、凛とした空気を纏った若い女性。
かっちりとしたダークスーツに鍛え抜かれた体躯を包み、気づかわしげな表情でトンネルを見上げる。
「あの馬鹿、一体何をしたんだ?」
岐阜の山奥で、違法なダンジョン利用を行っている疑いのある者がいる。
女性が勤務するダンジョン協会の外局に某有名ダンジョン企業から匿名の通報があったのが数日前。
通報内容によれば、半ば放置されていた古い低ランクダンジョンを使い、限界集落である倉稲地区を乗っ取り無茶な開発を繰り返しているという。
独自に収集した情報によると、件のダンジョンはSランク程度と推定される。
日本のダンジョン開発は弊社が保有するTokyo-Firstと産学共同で更なる開発を進めているOsaka-Secondを軸として行われるべきであり、イレギュラーな高ランクダンジョンの存在はうんぬんかんぬん。
「まさか、穴守グループCEOから直々の依頼とはな」
最初はいたずらかと思ったのだが、ほどなく穴守グループから正式な依頼が届いた。
「ふぅ」
綺麗に切り揃えられた金色の前髪をかき上げる女性。
エキゾチックな緑色の瞳と合わせ、外国の血が入っている事が分かる。
「GランクダンジョンがSランクにランクアップするというのはまずあり得ない……なら、ダンジョンランクの偽装か?」
正直、CEOの主義主張はどうでもよかったが(違法行為を伴わない限り、ダンジョンを用いた地域振興は結構な事だと思う)高位ランクダンジョンを低ランクとして登記していたのなら大問題である。
一応、協会に提出されていた書類を再チェックしたが特に問題はなかった。
ただ、書類は相続時の内容で最新の状況は分からない。
「それより」
彼女が問題視したのは依頼に付記されていた以下の内容である。
『なお、疑惑の人物は狐神の幼子をかどわかしており……』
「ワタシには一つもなびかなかったくせに……!」
バキッ
足元のアスファルトにひびが入る。
「はっはっは! どうしたのかねモエモエ? う○こか?」
「違う!
それに、その名で呼ぶんじゃない!」
更に最悪なのは、依頼元から派遣されてきたこの男だ。
今の言葉にあったように、デリカシーも皆無。
「おいおい、いくら同期とはいえ、今のボクは依頼主の代理だよ?」
「……申し訳ありません」
助手席に座る男に一礼する女性。
「なら、早く座席に座りたまえ。
奴の村に向かうとしよう」
ギュイイイイインッ
女性が後部座席に身を沈めた途端、エンジン音を響かせて急発進するスポーツカー。
新たな厄介ごとが、倉稲村に来襲しようとしていた。
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