第13話 初めてのダンジョン配信

(視聴予約5,730名か……まぁまぁね!)


 ダンジョンの第4階層まで下りてきた美里達。

 上層につながる階段近くにあった広場で、撮影を始めることにした。


「はいっ、それじゃ何枚かサムネ用撮ります!」


「……俺が真ん中でいいんですか?」


「トージさんがダンジョンのオーナーですからね。

 コンちゃんを抱っこしてあげてください!」


「こ、こうですか?」


「にはは♪」


 トージに抱き上げられ、カメラに向かってピースするコン。


(いい……!)


 現界した憑神はそれなりにいるが、成人の姿で現れることがほとんどだ。


 もふもふ稲荷のじゃロリ狐っ娘というオタ属性渋滞しまくりなコンではあるが、ちょいふけ……こほん、渋いトージと組むと親子のように見えて嫌味がない。


「美里さん、わたしたちは制服のままでいいですか?」


「もちです!!」


「え~、あたしのスカート短いからぁ、見えちゃうかもしれないし~?」


「ちゃんとスパッツを履きましょう!!」


 青いセーラー服に身を包んだ理沙と赤いブレーザーを着こなす礼奈。

 制服姿のJK探索者は王道だが、やはり人気がある。


「あ~、人気出すぎておわんこクラブからスカウト来ちゃうかも!」

「いや礼奈ちゃん、さすがに古すぎない?」


 純朴な雰囲気を持つ(なのにスタイル抜群)理沙とギャルっぽく振舞おうとしてるのにちょろい礼奈というおもカワ姉妹である。


(いける!

 ダンジョンと美少女の組み合わせ……たまらねぇ!!

 うっはああああああっ!)


 ダンジョンマニアであり、可愛い女の子も大好きな美里の内心は無事限界化していたのだった。



 ***  ***


「美里さん、凄い気迫だ……!」


 ダンジョンに入る前に確認したのだが、美里さんの所属する竹駒プロダクションはダンジョン配信の最大手だ。

 道理で名前を聞いたことがあったはずだ。


 そのプロダクションの人がこんなに気合を入れてくれるのだ。


「コン、頼むぜ?」


「うむ! 任せるがよい!」


 倉稲村に観光客を呼ぶための第一歩である。

 コンには”魅せ”探索ができるような階層構築をお願いしておいた。


「それでは、カメラ回します!

 配信開始5秒前……4……3……(2)、(1)」


(はいっ!)


 美里さんの合図と同時に、両手を広げる俺。


「孤高の青龍討伐者、穴守 統二!」

「同じく宇迦之御魂神(うかのみたま)の眷属にしてだんじょん付喪神コン!」


 ばばーん!


 俺の肩に乗り、まったく同じポーズをするコン。

 さすが俺の憑神さま、かっこかわいいぜ!


「わらわの主人の力、とくと目に焼き付けるがよいぞ?」


 どーん!


 コンのキメ台詞に合わせ、炎術を発動させる。


「「え、こんな中二的ノリ……?」」


「…………あれ?」


 つかみが肝心……という事でコンと仕込みをしていたのだが、斬新すぎただろうか?


「いや、クソださ……」

「礼奈ちゃん、し~っ!」


 女子中高生には、少々レベルが高すぎたようだな!



 ***  ***


(さ、最初はどうなる事かと思ったけど)


 少々……いやかなりダサもとい独特なトージたちの名乗りは、視聴者たちに好意的に受け入れられていた。


 >「新人配信者の名乗りがダサいwww」 スレから来たけど、結構イイじゃん!

 >な! コンちゃん可愛いし!

 >パーティの子たちもかわいい

 >妹ちゃんの方は平成中期ギャルイメージの冒険着かな? なつい

 >おっさん乙。最近Y2K(2000年代)ブームなんだぜ?

 >マジかよ……


 てちてち


「これが日本中の人間に見えておるのであろう? 凄いのう♪」


 ぶんぶん


 カメラに向けて両手と尻尾を振るコン。


 >かわいいいいいいいいいっ!×100

 >この子なに? ダンジョンの憑神なん?

 >耳と尻尾あるし、そうやろ

 >それじゃ今潜ってるダンジョン、最低Bランクってこと? やばくね。


(さて、どうなるかしら)


 今のところ、視聴者の興味はコンの可愛さとダンジョンランクに向いている。

 だがダンジョン探索配信のメインはやはり戦闘シーンである。


 バズるかどうかはこれからの展開次第。

 そう考えていた美里は、とんでもない光景を目撃することになる。



 ***  ***


「さあ征こうぞ! トージ、理沙、礼奈!

 我らの力、世に示すのじゃっ!」


「おう! やってやるぜ!」


「ちょっと、盛りすぎじゃないです?」

「フォロワーが増えるなら、何でもいいけど~」


 第4階層のメインフロアと思しき広間に到着し、戦闘を始めようとしているトージたち。


「う、ウソでしょ?」


 驚きのあまり、自分の声をマイクに乗せてしまった。

 そんなミスが気にならなくなるくらい、目の前に広がる光景は圧倒的だった。


 広間を埋め尽くしているのはモンスターの群れ。

 ゴブリンのような小鬼に、犬型のモンスター。

 奥にはドラゴンまで……合わせて百体以上はいるだろう。


 >……は?

 >モンスターってこんなにたくさん同時に出るもんなの?

 >いやいや、そのダンジョンが持つ固有の”地脈力”によるらしいけど、数体……多くて10体くらいらしいぞ

 >どうみても百体以上はいるんだけど!?

 >戦〇無双みたい……


 コメント欄に百パーセント同意である。

 ダンジョンには規模に応じた”地脈容量”があり、一度に取り出せる地脈エネルギーには限りがある。

 そのエネルギーが”資源コイン”として現界しモンスターに変化するのだが……。


 そんな理屈をあざ笑うように、圧倒的な数のモンスターが広間にうごめいている。


「つーことで、いつもの陣形な。

 理沙はまず右側の集団に突っ込んでかく乱。

 礼奈は理沙のフォローをよろしく」


「ラジャーです! 礼奈ちゃん、タマ当てないでよ?」

「なるべく気を付ける」

「なるべく!?」


「トージ、わらわに何か手伝えることはあるか?」


「とりあえず、応援しててくれ」


「うむ!

 がんばれ~! トージ、おねーちゃんたち!」


「「「うおおおおおおおっ!?」」」


(…………)


 驚きなのは、トージたちがこの事態に微塵も動揺していないことだ。


「よし、行くぞ!」


 どんな戦いが見られるのか。

 息をすることすら忘れ、カメラを回す美里なのだった。

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