19

「どうして生き残っちまったんだろうねえ」


 老齢の女だった。


「息子夫婦も孫も、皆死んじまった。こんな年寄りが生き残ったって、なんにもできやしない。穴を掘って埋めてやることもできないのに、生きていたってしょうがないだけさ」

「違う」


 皺の溝に涙を伝わせる老女に、コーネリアは静かに告げた。


「わたしもどうして生き残ったのがわたしなのかと思う。答えなんか出ない。でも、少なくともわたしはなにもできないんじゃない。家族と、皆と共に過ごしたした日々を思い出せるのはわたしだけなの。わたしだけが家族を悼むことができるの。あなたもそうでしょう?」


 老女の顔を見つめると、老女はどうと泣き崩れながらしきりにうなづいた。

 隣に座っていた女も泣きながら老女の背中をさすっている。

 コーネリアは全員の顔を見渡した。


「皆もどうかそれだけは覚えておいて。わたしたちは生きるの。生きてわたしたちにしかできないことをするのよ」


 それは自身に言い聞かせる言葉でもあった。

 今朝早く、コーネリアは父王の執務室へ行った。そこから街が一望できるからだ。

 まるで悪夢を見ているようだった。建物は崩れ落ち、あるいは燃やされ、いたる所から未だ白い煙がくすぶり続けている。圧倒的な暴力。なぜ、と誰も答えることのできない疑問だけが、頭の中をぐるぐると巡っている。

 いくら考えても出ない答えを待ち続けることはできない。

 フリーデン王家で生き残ったのはエルダーと自分。エルダーがいない今、民を導くのは自分しかいないのだ。


「なんですって?」


 テルラーダへ遣わした使者、騎士ミュラーがもたらした報告は苦しいものだった。


「はい。テルラーダは城が一番激しく崩壊しており、街も城に近いところが攻撃に遭ったようです」

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