第5話 アンバランスな男の子◇中川加奈◇
中川加奈と言います。
今日はハロウィンです。
ちょっとお祭り気分の公園を見にきて、木曽健太君に会いました。
普段の彼から想像できない話もあり、興味があるのです。
そして今は、にこにこ笑う彼に家まで送ってもらってる途中です。
最寄駅は同じ。
南北に伸びる鉄道をはさんで私の家は西、彼の家は東。
線路で中学の学区が分かれるので、高校で知り合いました。家の距離は2キロと近いようです。
彼の見た目は普通を絵に描いたような感じ。
ですが、彼の元に集まる3人の幼馴染みが、それぞれ目立っています。
まず清楚な優等生の園田亜梨沙さん。美男美女のアスリートコンビ、高岡翼君と桂木亮子さん。
ここでは健太君、翼君、亜梨沙さん、亮子さんと呼ばせてもらいましょう。
健太君は控えめです。幼馴染みに迷惑をかけないように普段から心がけています。
キラキラしたグループに所属しているから、やっかみの声も聞かれます。
自分に変なことを言われても笑っています。
変身する時は幼馴染みが絡んだとき。
先月は亜梨沙さんが違うクラスのギャルに馬鹿にされたそうです。
モテる翼君の至近距離にいるから、起こりうることてます。
健太君はその子に急接近しました。笑顔です。
「そういう話が耳に入ると、あなたも翼と仲良くなるチャンスがなくなってしまいます。もう、やめましょう」
ギャルが興奮して、健太君の胸を押して、お前は亜梨沙さんの彼氏かと聞きました。
「付き合っていませんが、大切な人間です。傷付けないで下さい」
そう言うと、ギャルが赤面して退散したそうです。
中学時代には、亜梨沙さんのために先輩を脅したことがあると噂されています。
それで殴られたとか、あとからハメたとか、和解したとか、意外な武勇伝もあります。
自分の悪口にへらへらしている彼をヘタレと言う人もいれば、逆の人もいます。
美化委員会で知り合った原田香緒里さんは、健太君とは知り合って7年、中学からはクラスメイト。
彼女は、健太君を猛烈に推しています。
健太君は亜梨沙&亮子のため頑張っていて、女の子を心地よくできる男だそうです。
確かに今、健太君は私を守ってくれています。
駅のホームで近付いてきた酔っぱらいと私の間に、会話を続けながらさりげなく入ってくれました。
あっ、ぶつかられたのに酔っ払いに謝っています。
飲み物も持たされていますが、健太君が寄りたいと言った、コンビニで買ったもの。
駅までの動線から外れた場所。健太君には「寄り道して、ごめんね~」と謝られました。
私には、前に好きだと言ったカーソンのオリジナル無糖紅茶です。彼は普通の100円アメリカンです。
数々の細やかな気遣いも自然で、意外な心地よさです。
そんな彼に興味を持ったのは違和感から。
小説を書いてみたい私は、人間観察をします。
健太君のように、高校1年生で堂々と仲間のためにものが言える人は、あまりいません。
だから、精神的に成長しているかと期待しましたが、そうではありません。
ひとことで言えば「歪・いびつ」なのです。
例えば恋愛に関わってくるような感情に乏しい。
亜梨沙さん、亮子さん、それに彼狙いの原田香緒里もいるのに、女性には尽くすのみです。
原田さんがパンチラしたら、優しく怒られたそうです。
味を占めた原田さんは、微エロ攻撃を繰り返しています。
気遣いが細やか。
なのに、自分に向けられる気持ちに興味がないというか、分かっていない。
封印しているというべきか。
思案していると、健太君がおかしな質問をしてきました。
「創作中の物語」と言いながら自分のことです。
男子2人、女子1人の幼馴染み3人の話。
その中の男女が惹かれ合い、残った男子1人が2人のために自然な距離を取ろうとする。
協力者を立てる方法がアリだろうか。そう聞いてきました。
さすがは恋愛に関してポンコツな健太君です。
何の捻りもありません。
惹かれ合うのは翼君と亜梨沙さん。距離を取る人が健太君。
協力者の候補者も私しかいません。
「中身はあなた、高岡君、園田さんのことですよね」
そう言うと、健太君が驚きました。
私は、驚いた健太君に驚きました。
この優しきポンコツが何をしたいのか分かり、興味が沸きました。
すると、健太君の心情が大きく変わった小学4年生のときの出来事を話してくれました。
3人に幼馴染み以上の、特別な気持ちを持っていることも伝わってきました。
なるほど。
彼は3人のため、数々の精神的な成長を犠牲にして、特に亜梨沙さんに尽くすスキルを身につけています。
私は中学2年生まで親の転勤が多く、幼馴染みがいません。
健太君の画策に興味津々です。
というか、なにをしでかすか・・
健太君が適度に翼君、亜梨沙さんと距離を取る作戦に、協力することにしました。
ところで健太君は、自分が言う結末でいいのでしょうか。
◆◆
まずは3日後、授業が終わって20分。
臨時で部活の話があるよ、と健太君に声をかけました。
翼君と亜梨沙さんは肩を並べて帰っていきました。
作戦成立、健太満足。ですが、何かインパクトに欠けているというか、幼稚な作戦です。
家に送ってくれるときのハイレベル健太君と、本当に同一人物なのでしょうか。
何度か健太君に協力していますが、何か変です。
「私達、何か見落としてませんか。見ていけば分かるんでしょうか」
恋愛回路が故障している健太君には、イマイチ響きません。
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