第44話:伊達征伐

天文九年(1540)6月30日:陸奥西山城:俺視点


 揚北衆は俺の命令に従って家臣領民を根こそぎ動員した。

 内心屈辱を感じただろうし、激怒していただろう。

 まだ幼い俺に命じられたのだ、当然の感情だ。


 だが、三条長尾家とは父祖の代から敵対してきた揚北衆だ。

 今は情け容赦のない厳しい態度が必要だと判断した。


 融和路線の兄上に逆らった連中だ、俺が甘い顔をすれば更につけあがる。

 揚北衆には、逆らえば伊達の前に滅ぼすと命じて置賜郡、伊達領に攻め込ませた。


 奥羽は奥羽山脈と出羽山地、二つの並び立つ山々に分けられた盆地に、多くの人が住む場所を分けられている。


 庄内地方の武藤や大宝寺が、俺に知られずに下越に奇襲をかける事は不可能だ。

 それは会津にいる蘆名も同じで、俺の諜報部隊の目を掻い潜って下越に奇襲をかける事はできない。


 だからといって油断している訳ではない。

 伊達家以外から奇襲をかけられないように、十分注意しながら攻め込んだ。


 下越地方から荒川を遡って置賜郡に入る越後十三峠街道。

 最初に出会う敵は、安久津や国分、大立目や片倉といった中小の国人だ。


 伊達四十八館とか田村四十八館とかは、多くの城館がある例えだ。

 正確に四十八の城館がある訳ではない。

 実際の数は、大小合わせて百以上の城館がある。

 

 それだけの在地領主がいて、それなりに力を持っていると言う事だ。

 越後で言えば下越地方の揚北衆のようなものだ。


『味方に付くなら領地は安堵する。

 敵になるなら一族皆殺しにして領地を奪う。

 奥羽のような手緩いやりかたはしない、畿内の情け容赦のない戦いをする』


 俺はそんな内容の手紙を伊達家の直臣、伊達家に服属している大中小の国人、国人に従う陪臣に送り、伊達家を内部分裂させようとした。


 諜報部隊が良く働いてくれているので、伊達稙宗に反感を持っている者が誰なのかは分かっている。


 最上家の家臣で、当主が伊達家の傀儡にされているのを面白くないと思っている者達、最上八盾と言われている者達が味方になると言ってきた。


 最上家の分家で最上八盾の盟主である天童家が、延沢、長瀞、楯岡、飯田、尾花、六田、成生氏の七家と連合を組んでいる。


 表向きは最上家を守るためだが、実際は自分たちが成り上がるためだ。

 最上の庶流は本家を押しのけて自分が当主に成ろうとしている。

 血縁関係のない国人は、下剋上で最上を滅ぼして支配者に成ろうとしている。


 最上周辺では、他にも管領家庶流である細川家、最上家に服属させられている寒河江広種、白鳥義久が味方すると言ってきた。


 伊達家の周辺にある大名級の国人では、没落しているが奥州探題の家柄を誇る大崎義直と葛西晴胤、遠藤高宗と岩城重隆、留守景宗が味方すると言ってきた。


 伊達稙宗に味方する大名級国人に対しては、家臣を切り崩して援軍を送れないようにしてやった。

 

 ただこれは表面的な武力と外交力をだけを使った策だ。

 勝負を分けた策は他にも色々やった。


 以前から買い集めて蓄えていた兵糧の一部を越後から置賜郡に運ばせた。

 奥羽でも去年の大水害の爪痕が残っていた。


 凶作で食べる物のない者達の前に、山のような食糧を積み上げてやった。

 足軽や奴隷兵に腹一杯喰わせている現場を見せつけてやった。


 情け容赦なく年貢と取立てる領主や地侍は、何とか食べている。

 だが食糧を根こそぎ奪われた百姓は、山に入って木の根を掘って食べている。


 領主に虐げられている百姓には、奴隷が腹一杯米の飯を食べているのは、衝撃的な光景だろう。


 他にも、安心して越冬できるように薪や炭も大量に運ばせた。

 運ばせただけでなく、銭に糸目をつけずに穀物と燃料を買い集めさせた。

 凶作で高値を付けているが、財力を見せつけるように買い集めさせた。


 流石に、伊達稙宗に味方する者は売りに来ない。

 だが、叛意を持つ者は城の備蓄を盗みだしてでも売りに来る。

 それくらいの高値、高騰する時価の倍で買い集めさせた。


 当然穀物と燃料の値段は更に高騰したが、その値段の倍で買い続けさせた。

 更に奴隷の購入を行い、足軽も募集した。


 まだ畿内ほど戦国乱世になっていない奥羽では、足軽の数は少ない。

 だが今年は去年の凶作で奴隷になった者が大量にいる。

 奴隷にはなっていないが、秋の収穫前に食糧が尽きた百姓が数多くいた。


 奥羽で売買されている奴隷を、倍の値段で買い集めた。

 飢えに苦しむ奥羽の百姓を足軽に雇った。


 これで伊達稙宗が動かせる兵数が一気に減った。

 伊達稙宗に味方する国人が連れて行く雑兵の数が激減したのだ。


 俺は買い集めた奴隷を越後、越中に送った。

 側に置いて敵に調略される危険も、逃げられて裏崩れの元になるのも危険だ。


 それよりは安全な後方に送って農作業をさせた方が良い。

 冬ごもりの間に軍事調練させておけば、数年後には戦力になる。

 俺は着々と敵の戦力を削り自分の戦力を増強していった。


 一時的に雇った足軽など信用していない。

 本軍から離れた場所にある敵方の城館を包囲させるだけで十分だ。

 敵の首一つに玄米一斗、目の色を変えて首を狙うだろう。


 伊達家は、西山城周辺にいる譜代家臣しか集められない状態となった。

 伊達稙宗の長男である伊達晴宗が味方すると言ってきた。


 晴宗は父親のやり方に危機感と反感を持っていたのだろう。

 五万の軍勢が攻め込んで来た事にも恐怖したのだろう。

 桑折景長、中野宗時、牧野宗興といった家臣と共に俺に味方すると言ってきた。


 一度に伊達家を完全に滅ぼす気はない。

 伊達家からの独立を画策している中野らが力をつけたら、俺に正面から戦いを挑めるような大勢力がいなくなる。


 最上は八盾を中心に分裂して力を失う。

 最上義光に成りそうな子供は、幼い頃から見張らせておく。

 多少の才覚があっても、俺が最上義守を支援すれば大丈夫だろう。


 俺が何もしなくても、最上八盾が潰してしまうかもしれない。

 自分の手を汚すことなく危険な者を排除してくれるなら、大助かりだ。


「伊達稙宗に味方した者を叩き潰す!

 領地を奪い一族一門を奴隷にする、かかれ!」


「「「「「おう!」」」」」


 俺は置賜郡、米沢盆地を直轄領にすべく伊達稙宗に味方した中小の国人を攻めた。

 四万五千兵に攻められては、小さな館ではとても守り切れない。

 

「武士に二言はない、宣言通り一族一門全て奴隷にする。

 しかし、復権の機会は与えてやろう。

 俺に忠誠を誓い、命懸けで戦うと言うのなら、奴隷兵にしてやる。

 戦いで手柄をたてれば、奴隷兵から足軽に成れるかもしれない。

 侍、いや、一国一城の主に戻れるかもしれない。

 このまま城を枕に一族一門討死するか、再起を賭けるか選べ!」


 俺の言葉を受けて九割の国人が城を明け渡して奴隷になった。

 だが、誇り高い一割の国人は城を枕に討ち死にした。

 一族一門全員が、女子供関係なく誇り高く戦い死んでいった。


「最後の一人まで誇り高く戦った生き様は天晴である。

 懇ろに供養してやれ」


 米沢盆地を完全な直轄領とした後で、福島盆地にある伊達家の本拠地、西山城に行って伊達晴宗を臣従させた。


 伊達稙宗を人質として受け取り、行軍に同行させた。

 これで伊達晴宗が逆らった場合の神輿が確保できた。

 

 伊達家が本拠地としていた、福島盆地にいる国人の半数を潰した。

 伊達稙宗に味方した国人を、米沢盆地の国人と同じ条件で潰した。


 米沢盆地には古参の奴隷兵一万を屯田兵として残した。

 三年五作を広めて食糧生産力をこれまでの四倍以上にさせる。


 彼らには、黒鍬兵として長尾家の拠点となる米沢城を築く役目もある。

 周囲の山々から注ぐ川に堤防を築く役目もある。

 伊達や最上が逆らわないようにする重石の役目もある。


 伊達や最上が逆らったとしても、米沢城を落とすのに時間がかかる。

 その間に援軍を率いて助けに行ける。


「会津を通って越後に帰る、出立」


「「「「「おう!」」」」」


★★★★★★戦国仮想戦記、次々作主人公投票の結果


龍造寺隆信 1

龍造寺政家 1

佐野昌綱  1

壬生綱房  1

古田重成  1

松永久秀  2

三好義継  1

宇喜田直家 1

織田信忠  2

長宗我部元親1

佐竹氏の誰か1

伊達実元  1

伊達繁実  1

近衛前久  1

雜賀孫一  1

諏訪頼重  1

水野勝成  1

六角義治  1

朝倉家の誰か1

細川管領家 1

大内義隆  1

大内晴持  1

一条房基  1

村上武吉  1

村上吉充  1

来島通総  1

芳賀高定  1

羽柴秀長  1

羽柴秀次  1

小吉秀勝  1

小田家   1

北条氏の誰か1

北条(上杉)三郎景虎 1

斎藤道三の末息子の二人 1


2票が2人、松永久秀と織田信忠でした。


次作、3作目以降に用意している主人公との兼ね合い。

個人的な好みも含め、次々作は織田信忠とさせていただきます。

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