第28話:私鋳銭と物価

天文六年(1537)12月29日:越中新庄城:俺視点


 俺の本拠地、富山城が着々と完成に近づいている。

 城下町、総構えを含めれば、前世の江戸城を超える規模になる。

 総構えの中には、今本拠地にしている新庄城も含まれることになる。


 雪が降り積る前に、足軽兵団、奴隷兵団、領内の地侍と百姓を総動員して、富山城の築城作業を行わせた。


 もちろん、最優先は穀物の生産と堤防造りだ。

 食い物がないと戦う事もできない。

 俺が支配している人々が餓死するなど、絶対に嫌だ、耐えられない!

 

 越後では直轄領や譜代領以外でも立毛間播種が行われ、毎年の収穫量がこれまでの四倍以上になっている所が増えている。


 遊水地にされて、最初は怒っていた国人地侍百姓達も、今では俺を生き神様のように崇め奉っている。


 最初から蓮根、里芋、畑山葵だけを作れば、水害があっても確実に収穫できる。

 水害の確率が低い、あるいは水害になっても水が引くのが早い。

 そんな場所には茄子、西瓜、辣韮、韮を植えるようになっている。


 越後の国人は立毛間播種で収穫量がとても増えている。

 だから俺を見習って増えた利益で奴隷を買い、何時でも戦わせられる兵にしつつ、遊水地で耕作させるようになった。


 越後の国人は、農業生産力が増えただけでなく、何時でも戦わす事ができる奴隷兵も手に入れたのだ。


 ただ、だからといって、俺に正面から逆らう事はできない。

 実際に田畑を耕している地侍や百姓が、俺の事を生き神様のように奉り出したので、俺に謀叛を起こしたら確実に領民一揆となる。


 俺に逆らう事ができるのは、未だに立毛間播種を取り入れていない、これまで通りの生産力しかない国人だ。


 そんな国人は、春日山城から遠い下越地方だけだ。

 下越地方、俗に言う揚北衆でも北側、伊達や蘆名の影響が強い者達だ。

 連中の力を削ぐ策は着々と進んでいる。


「若様、明日京に向かう船の積み荷でございます」


 家老の山村若狭守が、積み荷を書き記した帳面を持ってきてくれた。

 岩瀬湊と若狭だけを往復する船なので、積荷も限定されている。

 越後産の清酒、塩、味噌などは、帝と将軍家の献上品という付加価値をつけた事で、日本で最高級品として扱われている物ばかりだ。


 だが、俺が造らせているのは酒や味噌だけではない。

 銭の鋳造にも成功したのだ。


 幕府と朝廷の権威を使って、日本中から粗銅を買い集めて灰吹き法を行った。

 粗銅から金銀を取り出して、残った銅で銭を鋳造した。


 俺の主要な財源は、今でも東西の銭相場だ。

 銭相場、東西の銭の価値が違う状態を続ける為には、東西で好まれて使われる銭がなければならない。


 永楽銭は、密偵の調べで東国の有力者が私鋳しているのが分かった

 だが宋銭は、明国が海禁したのでもう入って来ない。

 いや、宗が滅んでいるから、明が交易を再開しても明銭しか入ってこない。


 いずれは全ての宋銭が古くなり鐚銭となってしまう。

 そこで俺は、質の良い宋銭を種銭にして宋銭を私鋳させた。

 覚えている限りの鋳造法を職人に試させて、質の良い宋銭の鋳造に成功した。


 粗銅を灰吹きした後の銅だけでなく、欠けたり割れたりして鐚銭扱いされている宋銭や、特に出来の悪い私鋳銭を鋳つぶして材料にした。


 本当はほとんど鉛や錫を使っていない、前世の十円硬貨に近い品位にしたかった。

 だが、本来の宋銭とあまりに違うと、私鋳銭だと分かってしまう。


 しかたなく少しだけ鉛の量を減らした。

 前世の江戸幕府が鋳造した寛永通宝に近い品位にしたのだ。


 「宋銭の平均的な品位」1匁3・7グラム

 銅:65パーセント

 鉛:30パーセント

 錫:5パーセント


「長尾銅銭(1文銭)の平均的な品位」1匁3・7グラム

銅     :60パーセント

鉛     :25パーセント

鉄     :13パーセント

アルミニウム: 2パーセント


 僅か五分とはいえ、鉛の量を減らした理由は簡単だ。

 これからの戦いが鉄砲の量で決まるからだ。

 鉄砲だけでなく、大砲も造らせる予定だからだ。


 鉄砲や大砲の弾は鉛でできている。

 追い込まれてどうしようもなくなったら、武田勝頼のように鐚銭を鋳潰して、銅と鉛が混ざった弾を使う事になる。


 そんな事にならないように、今から鉛を備蓄しておくのだ。

 鐚銭を鋳潰して長尾家の私鋳銭を造る度に、少しずつ鉛が溜まっていく。


 岩瀬湊にやって来る唐船からは、大量の鉛も買っている。

 代価は昆布、干鮑、干海鼠、鯣が主流だ。


 物々交換ではないが、日本から鉱物が流出しないように、できるだけ農作物や漁獲品で相殺している。


 ただ絶対に相殺させない大切な物もある。

 手が凍るような冷たさを我慢して核入れをした淡水真珠は、とても貴重で高価なので、絶対に鉛などとは相殺させない。


 貴重品だと言う印象を強めるために、金でしか売らない。

 形も色も良く粒も大きい淡水真珠は、最低でも純金五十両以上になり、形も色も悪く粒が小さい淡水真珠でも、最低一両(三七・五グラム)になる。

 

 それでなくても黒字だった唐船との交易が、圧倒的な黒字になった。

 唐船同士が先を争って、時に湊を出た後に襲撃する事もあるくらい争って、淡水真珠を求めていた。


 だから、越中新庄城には金銀財宝が溜まっていく。

 船が湊に着く度に、大量の銭と品物が蔵から出し入れされる。


 ただ、まだ日本共通の通貨が造られていない金銀に関しては、将来の為に新庄城の蔵に保管されていくのだが、毎日のように新しい蔵が必要になる。


 流石に全てが金銀用という訳ではない。

 鉛用、亜鉛用、硝石用、錫用、武器用、甲冑用の蔵もある。

 毎日新しい蔵が必要なのは銭だ。


 我が家には、永楽銭用、宋銭用、鐚銭用、私鋳銭(長尾銅銭)用のどれか一つを毎日建てなければいけないくらいの利益があるのだ。


「平均的な年の京での戦国時代物価」

砂糖:一斤:百四十四文

茶 :一斤:六十文

塩 :一升:四文

酒 :一升:七十文

豆腐:一丁:四文

油 :一升:六十六文

味噌:一升:六十五文

古着:一着:四十文

関料:一人:十文

関料:一頭:十文

関料:荷物:十文

鉄砲:八貫五百文

打刀:三百文

槍 :一貫文

鎧兜:四貫六百文

軍馬:二貫文

人足:二食:八十文

宿泊:二食風呂有:四十文

宿泊:二食風呂無:二十四文


一斤:1500g

一升:1500g

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