葵の話

第一印象は、とっつきにくそうな女子。身長も声も存在感も大きくて、いつの間にか化粧をしてアクセサリーを付け出した派手な容姿は俺とは正反対だ。なのにしょっちゅう話しかけてくる。俺と話して何が楽しいのか、いつものように元気な声で笑ってくれる。よくわからない人だ。


第一印象がひっくり返る出来事が起きたのは高校2年生になったばかりの時のこと。部活を終えた俺は広とともに部室を出たものの、昇降口で忘れ物に気づきもう一度部室に戻る羽目になった。もう誰もいないんだろうなと思いつつ部室のドアを開けると、黒髪ボブの女子生徒がこちらに背を向けて床に座り込んでいた。俺がドアを開けた音で彼女は振り向く。同級生の瀬戸希望だ。瀬戸は泣いたような目をしてこちらを見ている。

「あれ、本山?帰ったんじゃなかったの?」

いつも通り明るい声を装っているのかもしれないけど、声が震えている。疑問を感じつつも俺は素直に答える。

「スマホ机の中に忘れた。瀬戸は?帰らないの?」

「ちょっと探し物があってね、桃華にも先に帰ってもらったの。」

そう言いながら床に手をついてはいつくばって何かを探している。そんなポーズになって探すものなんてよっぽど小さいものなんだろう。

「何探してんの?」

スマホをリュックサックにしまいながら何の気なしに聞くと、瀬戸は震える声で答えた。

「…ネックレス。桃華に誕プレでもらったんだけど、さっき落とした時にパーツがどっか飛んで行っちゃったみたいで。なかなか、見つからなくて。」

言いながら目に涙が溜まっていく。ここで知らんぷりして帰るのはさすがに良心が痛むため、一緒に探そうと瀬戸のそばに寄ろうとしたとき、俺の足元で何かが光った。しゃがんで手に取ると、金属でできたハート型の何かだった。もしかして、と思い瀬戸に声をかける。

「ねえ、これ違う?ハートの形の…」

言い終わる前に瀬戸がいきなり立ち上がって近寄ってくる。手のひらを見るために距離が近づくと、シャンプーか香水か甘い匂いが鼻をかすめた。

「これだ!ありがとう、本山…。よかった…。」

安心したのか大粒の涙が頬を伝う。拭う勇気も何か気の利いた一言をかける男気も自分にはなくておろおろしていると、いつの間にか泣き止んだ瀬戸がこちらを見て満面の笑みを浮かべた。

「ほんとにありがとう!」

単純かもしれない、その笑顔で俺は恋に落ちた。いつもの大胆さとは打って変わった健気なところもツボに入ってしまった。ポーカーフェイスが苦手ですぐに感情が顔や行動に出るところも、にぎやかで皆を笑わせるけど実は緊張しやすい繊細な一面を持っているところもかわいくて守りたくなった。


これは、正反対な君を好きになったきっかけの話。絶対本人には言えないけど。

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正反対だけどね。 すあま @suama0141

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