第14話

後ろに歩く桃華と広も葵の反応を待っているのか何も言ってこない。もういっそ聞こえなかったことにならないかな、なんて思ったとき、葵が口を開いた。

「希望はなんで俺に会えるだけで嬉しいの?」

その質問に顔を上げると、照れているわけでもなくただただ疑問を口に出しただけらしい。鈍感なうえに天然だ。

「えっと…」

私は返答に迷う。好きだから会えるだけで嬉しいって素直に言う?それとも何とかしてごまかす?口をつぐんだまま心の中で自問自答していると、見かねたのか広が会話に入ってきた。

「それだけ大切に思ってるってことだろ?嬉しく思えよ、葵。」

ふざけたように笑って広が葵の肩を軽く叩く。広の助け舟にほっとしつつ、私は葵に向かって言う。

「そんな感じかな。まさかまっすぐ聞いてくるとは思わなかった、照れちゃうじゃん~。」

内心心臓バクバクで今にも飛び出しそうな中おどけて笑うと、葵はそっか、とつぶやいた。その顔はいつも通りにも見えたけど、少し釈然としない顔をしているようでチクリと胸が痛んだ。ごめん、葵。でも今の私は素直になれるほどのかわいげも勇気も持ち合わせていないんだ。


「職員会議でOKが出たらしいので、この計画書通り各自進めていってほしいと思います!わからないこととかあったら3年に聞いてね!」

事前にプリントアウトしておいた夏休み中までの計画書を部員に配り、教卓で私は話す。自分の手元には、担当の掲示物をどれくらい張り替えるのか、いつ登校してやるのかなどが書かれた書類を持っている。同じものを葵に渡すと、どこか遠くを見てしまっていて全然気が付かない。

「葵?どうかした?」

声をかけるとやっとプリントと私の存在に気づいたらしく、あわてて受け取る。

「ごめん、ぼーっとしてた。」

「就活で疲れてるんじゃない?無理しないで今日は帰ってもいいんだよ?書類は配り終わったし。」

「いや、就活もだけど。あのさ…。」

話し始めたものの、言いづらいことなのか口をつぐむ。その様子を見た私は提案をする。

「ここで言いづらいことなら、移動して話す?いくらでも理由付けられるよ、リーダー権限で。」

小声で話しかけると、浮かない表情だった葵はうなずいて笑った。その表情の変化にドキッとしてしまう。

「桃華、ちょっと葵と相談したいことあるから抜けていい?」

桃華がOKサインを出してくれたので、葵と廊下に出る。旧棟はグラウンドが遠いため静かだ。

「どこか移動する?」

「階段なら人、来ないと思う。」

言いながら葵は部室の前の屋上まで続く階段を上っていく。その後ろ姿を追いかけていると、葵が踊り場で足を止めてこちらを振り向く。

「希望に聞きたいことがあって。」

「うん、何?」

「間違ってたらごめん。その、希望って俺のこと好きだったりする?」

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