第10話

「あぁ、あれはただ同じクラスの女子だよ。特にいい感じも何もないから、別に入ってきてもよかったのに」

葵の答えにほっとして脱力する。あれこれ考えていたのが馬鹿らしくなり、思わず笑ってしまう。

「なんだ、そうなんだ…。ふふ、よかった~。」

口にしてから思わずはっとする。いい感じじゃなくてよかったなんて思わせぶりな言葉じゃないか!葵の反応をうかがうと、私の言動に照れるわけでも訝しげむわけでもなく、いつも通り何を考えているかわからない顔をしていた。わかってはいたけど、鈍いな!そういうところさえキュンキュンしてしまう私もどうかしている。

今日部会で何をしたかなどと話していたら、あっという間に駅に着いてしまった。こんな時だけは立地が憎い。

「駅着いたね、わざわざ一緒にいてくれてありがとう。」

名残惜しさを感じながら話しかけると、葵は改札を通りぬけながら言った。

「いや、一応ホームまで送るよ。坂戸と広にもそう言われてるし。」

「あ、ありがとう…。」

桃華と一応広にも感謝だ。朝のニヤニヤした顔を思い出すとむかつくけど。ホームに降りると、次の電車は10分後に来ると電光掲示板が教えてくれた。空いていたベンチに並んで座ると、肩が触れそうでドキドキした。

何か話そうと思うけど、緊張で頭が回らなくて話題が出てこない。そのため、周りの雑音やホームのアナウンスがやけに大きく聞こえた。人といて沈黙の時間が長いなんて我ながら珍しいと思うけど、葵と一緒ならたまにはいいかもしれない。葵は私がまだ本調子じゃないことを見越しているのか、それとももともと話題をよく振ってくるタイプではないからか黙って座っている。横顔を盗み見ていると、葵が口を開いた。

「希望さ、この前好きな人いるって言ってたじゃん。俺は彼女いるか教えたのに、希望は誰が好きか教えてくれないの?」

予想外の質問で息をのむ。まさか葵が私の恋愛事情に興味を持ってくれていたとは。仮に野次馬的な感情だったとしても嬉しい。

葵が静かに私を見ている。触れそうな肩と、前髪と眼鏡越しの視線に心臓が高鳴る。息を吸い、葵が好きだと伝えようと口を開いた瞬間。

ホームに電車が到着するというアナウンスが入り、間もなく轟音とともに電車が滑り込んできた。

「あっ、えっと…。私…」

「電車来たな、困らせてごめん。ただちょっと気になっただけだから。」

葵がベンチから立ち上がったので、私もあわてて後を追う。電車に乗り込む人の列に並ぶと、葵は手を振った。

「一応見届けたから、俺帰るね。また明日。」

「あ、うん。ありがとう!」

お礼を言って駆け込み乗車にならないように電車に乗る。車内からホームを見ると階段を上っていく葵の後ろ姿が見えた。なんてタイミングが悪いんだ。電車の窓に寄りかかると、思わずため息が漏れた。あと少しだったのに…。

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