第2話

「じゃあ、これから練習していきましょう」

放課後の部室に桃華の声が響く。今は部活中で、新入生獲得に向けて行われる部活紹介会の役割分担をしていた。私の同期である3年は私、桃華、本山、広の4人しかいないうえに、後輩の数も決して多いとは言えないので1年生にはぜひ入部していただきたく、活動紹介に力が入っているのだ。部長の桃華が活動実績を舞台上で話し、残りの3年と後輩たちで活動している様子をちょっとした寸劇を交えながら紹介するという形になった。前に出るのが好きな私とは対照的に、大人しめな男子2人はまだ練習すらしていないのにすでにぐったりとした顔をしている。

「じゃあ、劇の練習しよっか~!」

私の大きな声を合図に周囲に後輩が集まってきた。近くに座っていた本山と広はそのまま。桃華が書いてくれた台本に従って配役を決めていると、顧問から明日の放課後に体育館ステージが借りられるというニュースが入ったため、とりあえず明日通してやってみることになった。

「俺あんまり人前出たくねえんだけど…」

「同じく」

まだ配役が決まっただけなのに、観衆を想像しただけですでに疲れている本山と広。後輩も緊張からかどこか不安げな顔をしている。

「まだ練習する時間はあるし、特に2年はセリフ少ないか全くない人が多いからそこまで心配しないで大丈夫だよ!不安なら練習いくらでもこの優しい私が手伝うからね!」

私の軽口に皆がクスリと笑う。少し緊張のほぐれた顔を見れて私が安心した。ふと本山を見ると、セリフが書かれた紙を見ながら呆然としている。緊張している自分を押し込めて、各々セリフや動きの確認をしている後輩から離れ本山に話しかける。

「大丈夫?すごい嫌そうだけど」

「嫌に決まってるよ、全校生徒の前で失敗したら恥ずかしくて死ねる」

「失敗しそうになったらできるだけカバーするよ」

「瀬戸は男前だな」

「どう見たってかわいい乙女でしょう?」

拳を頬にくっつけてぶりっ子ポーズをするとやっと笑ってくれた。それだけで私の顔は熱くなる。

大人しくてあんまり頼りがいないし、私より身長低いし、長い前髪と眼鏡に隠された目はなかなか見ることができないくらい容姿も暗めだけど。そういうほかの女の子たちが敬遠するようなところさえ愛しく見えちゃうんだから、とことん恋って不思議だ。ほかの人には何も考えないで送れるメッセージだって怖くて送れた試しがないし、少しでもかわいいって思われたくて、視界に入りたくてメイクもヘアレンジも毎日頑張っている。にも関わらず、私の意気地なさと本山の鈍感さのせいでただの同級生どまりだ。夏休みが終わったら部活を引退してしまうから、それまでに何とかして近づきたいんだけど…。予測不能な本山の横顔に思わず見とれてしまっていると、後輩からの練習希望の声で現実に戻ることとなった。

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